誰も知らない

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電話を掛けるのをやめ、柱の陰からこそっと様子を伺うと、同じチームの同僚が辺りを見回しているのが見えた。 ここで目が合うと気まずいな。 ただそう思い、一旦電話は諦めてゆっくりと遠ざかった。 だから、わたしはあのとき起きたことをこの目で確かめていない。 聴こえたのは、言い争っているような抑えた声音と、ぽちゃんと何かが水に落ちたような音。 何の音もしなくなってから、恐る恐る駅に戻る道へ進むと、もうその人は消えていた。下を向くと、足元には噴水から漏れ出た水を排水する水路があった。水路には何も落ちていなかった。道の先にある排水溝に、もう落ちてしまったのかもしれない。 何となく嫌な感じがしたけれど、早く家に帰りたくてわたしは早足で駅に向かった。
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