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 オレたちがライブハウスに来た理由は、キィ子に頼まれたからだ。キィ子とは、オレらの担任で音楽教諭、めっちゃ厳しくてすぐキィキィ言うんでキィ子と呼ばれている。だが、オレらのバンド活動に理解を示してくれて、結構美人なんでオレはここだけの話、ちょっと心惹かれている。で、オレらの曲をキャロル・キングばりにピアノ弾き語りをキメたもんだから、いつの間にかオレらのバンドのメンバーになってる。  そのキィ子は放送部の顧問をしてるんだけど、今学期から昼休みに放送をするってことになった。で、このライブハウスはコロナの影響で営業できないから、しばらくお店を古着屋さんに貸している。でもライブ再開まで器材の置き場がない。それならば、と言うことで学校が放送用に器材を借りることになったらしい。ちなみに店長はオレらの学校のOBなんだそうだ。  店長の車を店の前で待つ。  マイクはSHURE SM57と58、各数本ずつ、マイクスタンドも数本、ミキサー、AKGのヘッドフォン・・・音楽器材に囲まれるってシアワセ!重苦しい空気がちょっと軽くなる。  プップ〜、と間の抜けたクラクション。オースチンミニ、ツインキャブレターのクーパーSがセンターマフラーからブウォンブウォン喘ぎながら登場。後部座席にはすでにFenderとVOXのアンプが乗っている。もはや、マイクとミキサーしか乗せられない。オレらが乗るどころか、マイクスタンドすら運べない。もっとでかい車はないんかい? 「じゃあ、申し訳ないけどみんなでマイクスタンド持って行ってねえ」と、ミニが走り去る。 「じゃ、行きますか・・・」と、オレら3人はトボトボ歩く。でも、マイクスタンドを持ってるってだけで、ちょっとテンション上がるから不思議だね。
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