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日曜日の朝。美穂は、スポンジケーキ作りに奮闘していた。えっと、卵の泡立て具合はこれでよかったかしら?いつもは自信をもって焼くケーキも、今日はちょっと緊張気味だ。うん、いつもどおり、大丈夫なはず。180℃のオーブンで20分。
いい感じにふっくらとしたスポンジケーキが焼きあがった。11時くらいになったら、デコレーションを始めよう。
「おう!今日は、久しぶりに美穂のケーキか」
と父が言う。ホントに久しぶりだ。拓也と付き合っていた時は、よく、平日夜に焼いていた。比較的、残業の少ない会社だったのだ。このところ、なんだかバタバタしていて・・・CLOVERにまだ完全に慣れていないせいもあるけれど、ご無沙汰だった。
「美味しくできるか分からないけど・・・」
「美穂の腕は、確かだよ」
そんな風に言われると、ちょっと照れてしまう。
「ありがとう、パパ」
「和希くんは、3時に来るんだよな。緊張するなぁ・・・」
「パパ、拓也のときはそんなこと言わなかったくせに」
「いや、以前、和希くんに失礼な態度を取ってしまったからな」
そんなことも、あったな。
「大丈夫、カズキくん、気にしてないよ。パパとママに会うの、楽しみにしてる」
「なら、いいんだが・・・美穂、その指輪は」
美穂は右手薬指の指輪を触る。和希とのペアリング。
「カズキくんとの約束のペアリングよ。婚約指輪はまだ先、だけど」
父が微笑む。
「一歩、一歩、進んでるんだな」
「うん」
11時になり、美穂はケーキをデコレーションする。文字は・・・なんて書こうか。
昼食を父と母、3人で摂り、ひと休み。和希を迎える準備はできている。あとは、着替えるだけだ。3人は部屋でそれぞれのお気に入りの服に着替えた。父は、ちょっとお洒落なカジュアルスーツ、母は大人しめのワンピース、美穂は初めて出会った日の服を着ていた。
「ピーンポーン」
3時ぴったりに、ドアベルが鳴った。和希だ。
「は~い!」
母がドアに駆け寄る。ドアを開くと、ちょっと緊張した和希がいた。
「初めまして、飯島和希です。今日は、お邪魔します」
「どうぞ、どうぞ。上がってください」
母の明るい声が聞こえる。
「あなた、飯島さん、いらしたわよ」
父が、和希を出迎えに行く。
「君が、和希くんか。君のことは美穂から色々聞いているよ。どうぞ、居間へ」
「ありがとうございます」
美穂が、居間で和希を迎える。
「カズキくん、いらっしゃい。ケーキ焼いたの。紅茶でいいかしら」
「うん・・・あっ、お父さん、大したものじゃないんですが、お土産です」
「おぅ、ありがとう。甘いものかな?」
「クッキーなんですが」
「ありがとう。僕は甘いものに目がなくてね。クッキーも大好きだ」
ほっ、と和希が胸をなでおろす。
「まぁ、座ってください」
とソファに促す父。
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