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「和希くん、ジュエリーデザイナーになるために学校に行ってるんだって?」
父が、探るように言う。
「はい。工学部デザイン科を卒業して、一度は印刷会社の総務部で働いてたんですが・・・もともとあった、「モノづくりをしたい」という夢をあきらめきれなくて」
「しっかりした企業で働いていたのに辞めるなんて・・・まぁ、美穂もそうだから、強くは言えないが、将来のビジョンとかはしっかりあったのかね」
父が少し、キツイことを言う。
「はい。まだ、1年生ですが、入りたい工房はいくつか訪れています。そして、今、バイトで宝飾店で働いて、目力のほうもつけています。来年になったら就職活動ですが、プレゼンできるデザイン画を少しずつ書き溜めています。すぐにデザイナーとして独り立ちはできないかもしれませんが、卒業後、無事に就職できたら、美穂さんと結婚したいと思っています」
「そうか・・・いろいろ、考えているんだな」
「ケーキ、食べて?カズキくんと初めて会った記念よ」
ケーキの上には、ピスタチオペーストを加えた緑色のクリームで”Iijima's and Izumi's forever"と書いてあった。そして、クローバーの絞り出し。
「私の、飯島家と和泉家が永遠に幸せでありますように、という気持ち。カズキくんのご両親はここにいないけど」
「美穂・・・ありがとな。」
和希が言った。美穂はもう、両家の幸せを考えている。
「お父さん、あのね・・・このネックレス、カズキくんからの初めてのプレゼント。カジュアルデザインの授業でデザインして、作ってくれたんだって」
「そうか・・・」
「ケーキ、食べよ、食べよ」
美穂がケーキを切り分けて、皿に盛る。みんなに行きわたって。
「いただきます!」
口々に言った。うん、スポンジの感じもいいし、クリームもちょうどいい。よかった!成功!
「うまいよ」
「初めて食べたけど、すごいうまい」
「美味しいわよ、美穂」
みんなに褒めてもらって、大満足の美穂だった。
「夏休みになったら、美穂に福岡のうちの実家にも来てもらいたいんだけど」
「うん、どうにか調整するね」
そのあと、美穂の幼いころの写真を見たりして過ごした。
和希が
「槇原敬之の詞じゃないけど『当たり前だけど、僕がここにいないのが悔しいな』」
「あはは、あの歌の逆バージョンだ」
「そだね」
なんて話していたら、あっという間に5時。
「ママ、カズキくんと外でゴハン、してきていい?」
「いいわよ、そう言い出すと思ってた」
「ありがとう、じゃあ行って来ます」
「お邪魔しました」
父と母が笑顔になって
「いつでもまた遊びに来てください、和希くん」
と送り出してくれた。
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