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「そろそろ帰らなきゃ」
美穂が残念そうにつぶやく。
「そっか。送るよ」
名残惜しそうに和希が言って。
「明日は、横浜中華街。来福門、11時に予約してあるから。7時に、クローバーにケーキ頼んでるから、楽しみにしてて」
「うん。あぁ、私もついに28かぁ」
「美穂って、可愛いから、そう見えないけどね」
「幼いって意味?」
「じゃなくて、魅力的、って意味」
唇を重ねる2人。
「ほんとに・・・急がなきゃ」
「だな」
小走りで練馬駅を目指す2人。東中野駅までは、そうかからないけど。
「ぎりぎりになっちゃたな」
「お父さんに顔見せないほうがいいかも」
「ごめんな。じゃあ」
「送ってきてくれてありがとう」
和希の後ろ姿を見送って、美穂はドアを開けた。
「美穂!!門限5分前だぞ!誰と・・・」
「まぁまぁ、お父さん。美穂もちゃんと門限前に帰ってきたんだから」
お母さん、ありがとう。そう心の中で言って、階段を上がる。
【お風呂入って寝るね。おやすみ、カズキくん】
【あぁ。こっちはまだ駅。おやすみ】
(来福門・・・かぁ。本当は2回目のデート、私が映画に誘って、ランチに行く予定だったんだよね。あれからずいぶん時間が経ったような気がしたけど、ついこのあいだ、だったんだ。あれから、色々なことがあったなぁ。)
美穂は、過去に想いを馳せていた。
(あの日は、拓也のことをカズキくんに知られた日。急遽、カズキくんのアパートでビデオを観て、ゴハンを食べて、そして・・・)
美穂は、あの日よりずっとずっと和希を好きになっていた。和希の真っ直ぐさを知るほどに、魅かれていく自分が分かった。その和希と、明日は念願の来福門だ。
待ち合わせは、9時半に新宿駅南口の花屋の前、と以前から決めていた。確認はしなかったが大丈夫だろう。そういや、和希はあの店でプチブーケを売りつけられたんだった、初めて会った日。
信じられないほどに、和希でいっぱいの毎日を送っていたんだなぁ。
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