バースデー当日~幸福、そして・・・

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「坂上店長、その格好は・・・。とりあえず、入ってください。スウェットですけど、私のがあるので、シャワーを浴びてそれに着替えて」 「・・・合鍵、持ってるの?」 「あぁ、はい。どうぞ。浴室の場所とかは・・・分かりますよね」 「ええ」 「これ、着てください。下着までは、ありませんけど・・・」 「充分よ、ありがとう」 浴室からシャワーの音がする。彼女は、なぜ、ずぶ濡れで・・・。なぜ、和希のところに来たのか。そのことが、頭から離れない美穂だった。 「ありがとう。さっぱりしたわ」 浴室のほうへ行ってみる。坂上店長は、きれいだ。すっぴんでも、38歳という年齢を感じさせない透明な素肌。 「一体、どうしたんですか?」 「結局、陽平とはうまく行かないのよ。だって・・・私の心の中にはいつも和希がいるんだもの」 「・・・坂上店長・・・」 がちゃっ、ドアを開ける音がして和希の声がした。 「美穂~?どこだぁ~?ケーキもらってきたぞ」 するり、と坂上店長が美穂の前をすり抜けたと思うと、ダイニングの和希の前に立っていた。 「和希・・・あなたが好き」 つぶやくと、和希の唇に自分の唇を寄せる。 とっさに、和希は坂上店長の肩をつかみ、抱き寄せた。 「今の僕に出来るのは、ここまでです。友情のハグ。心配事があるのなら、言ってください。陽平さんと、何かあったんですか?」 「友情の・・・ハグ?」 「そうです。僕と奈津美さんのあいだに今あるのは、友情だけ。愛情じゃない」 「3年も、つきあったのに?結婚の約束も、したのに?・・・忘れちゃったの?」 「2年と少しのブランクは、愛情を友情に変えるのに十分な時間です」 「・・・あなたには、そうかもしれないけど」 「奈津美さんにとっても、そのはずです。陽平さんと、何かあったんでしょう?」 奈津美は唇を噛んだ。 「1時間半前に、カフェで・・・陽平が、来月からLAに転勤になるから、だから・・・って言ったの。私、その続きを聞くのが怖くて・・・」 そこで、美穂が口をはさんだ。 「プロポーズかも、知れないのに?」 「・・・えっ?」 奈津美が心底びっくりした顔をした。 「だって、私たち、2ヶ月以上会っていなかったのよ。陽平の仕事が忙しくて。忙しいって言っても、たとえ、10分でもいいから会いたいのが女心じゃない」 「LAに転勤だったら、ホントに超絶忙しかったのかもしれないよ?」 「そんなことって・・・私、取り返しのつかないことしちゃったかな」 奈津美のスマホには、「会いたい」「話がしたい」「どこにいるの」と言うメッセージと、着信履歴が数えられないほど。それも、1時間ほど前で、プツリと途切れている。 「奈津美さん。電話かけてみなよ、陽平さんに」 「うん。ちょっと別の部屋に行くね」 と奈津美がダイニングを離れた。 「カズキくん・・・本当に、『友情のハグ』だよね?」 美穂がいたずらっぽく聞いた。 「当たり前だろ。愛してるのは、美穂だけだよ」 と言って、キスをした。 「それに、こんなに早く、合鍵を渡すのも美穂だけだよ。奈津美さんに渡したのだって、2年経ってからだし。あ、ちゃんと返してもらったよ」 「分かってるって」 美穂はなんだか、心があったかくなるのを感じていた。
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