君、カタルシス

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親愛なるJへ 信じられないかもしれないが本当のことだ。 つい先日から僕は、一切涙を流すことができなくなってしまった。「涙の貴公子」だなんて呼ばれているこの僕がだよ? 僕は人間なのに、心が動かないんだ。 もう死ぬのかもしれない。 人はなぜ泣くと思う? 人より涙腺が太いのは認めるよ。でも僕にとってそれは心のデトックスや感情の消化であって、必要な儀式なんだ。 それができなくなったら? ハンバーガーとピザを立て続けに食べればいくら好きでもオェってなるし、そのうち胃が破裂する。 要するに、僕は今心が破裂寸前で、バイオリンを持てない。 そういうことだ。 指揮者のペペには君から謝っといて欲しい。 コンマスは明日からコンミスだ。なに、レベッカなら2、3発ウィンクを叩き込んでおけばそう文句は言わないよ。君が代わりにやっといてくれ。 というわけで、君がこの手紙を読んでいる頃には僕は遥か遠く離れた生まれ故郷に着いていると思う。そこでUDONを食べるつもりなんだ。 君は知らないだろうが、あそこにはイリコ出汁っていう問答無用で琴線に触れてくる魔法の液体があってね。あのソウルフードが唯一僕の心を生き返らせてくれるんじゃないかって、今すがる思いで飛行機のチケットを取ったところさ。 マイル? 使った使った。 あぁ、泣くなよJ。君が寂しくないよう、美しい僕の写真をたくさん送るからね。 ××× 神谷詩音 P.S. ついでに母校見学をしてくるよ。なんだか体が誘われるんだ。これはただの、第六感なんだけど。
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