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梨夏はそれを無視して、そのまま歩き続ける。花染は首をかしげた。
やがて、小さな町工場のある角を曲がったところで、梨夏がようやく答えた。
「花染さん」
「なんだい」
「実はわたし……もう犯人を知ってるんです」
夏の空気がぐにゃっとうねった。
「え?」
花染が立ち止まった。アスファルトの地面の小さな石がカッカッンと跳ねた。
「すでに犯人を知っている?」
「ええ。瞬一と同じサッカー部だった。矢島です」
梨夏は神妙にいった。
「ヤジマ?」
「ええ。矢島 剣吾といいます。彼が犯人です」
その言葉のあと、数秒の沈黙が続いた。
夏風が花染の袴を揺らしていた。
《1章『夏風に揺れる花染さんの袴』~了~》
2章へ続く
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