《1章》 夏風に揺れる花染さんの袴

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梨夏はそれを無視して、そのまま歩き続ける。花染は首をかしげた。 やがて、小さな町工場のある角を曲がったところで、梨夏がようやく答えた。 「花染さん」 「なんだい」 「実はわたし……もう犯人を知ってるんです」 夏の空気がぐにゃっとうねった。 「え?」  花染が立ち止まった。アスファルトの地面の小さな石がカッカッンと跳ねた。 「すでに犯人を知っている?」 「ええ。瞬一と同じサッカー部だった。矢島です」  梨夏は神妙にいった。 「ヤジマ?」 「ええ。矢島 剣吾(けんご)といいます。彼が犯人です」  その言葉のあと、数秒の沈黙が続いた。  夏風が花染の袴を揺らしていた。 《1章『夏風に揺れる花染さんの(はかま)』~了~》 2章へ続く
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