249人が本棚に入れています
本棚に追加
「ただいまぁー」
梨夏は玄関のドアを開けた。和彦の気配がない。日曜出勤になったのだろうか。
良かったあ、と思った。
帰宅早々に和彦から嫌味を受けるなんてたまったものじゃない。梨夏はそそくさと部屋に入り、しばらく休んだ。
夕方を過ぎた頃、和彦が帰ってきた。作業着は着ていない。珍しくスーツ姿だった。
――何の用だったのか。梨夏は想像する。もしかしたら……女と会っていたのではないか。
いつもは娘が寝静まってから会っていたのを、今日は堂々と日中に会える。娘の帰りを心配しながらも、内心は喜んでいたのではないだろうか。梨夏は和彦の行動の奥底を妄想して鼻で笑った。
リビングで和彦と話すことになった。テーブルをはさんで向かい合った。
「大丈夫だったのか」
和彦は重たく口を開いた。
「うん……彩乃の家に泊めさせてもらったから」
梨夏は視線を壁へそらす。
「その日のうちに帰るという約束だったのは覚えているよな」
梨夏は胸が重くなった。脇がじわり湿っていくのを感じた。
「ごめんなさい」
「ふぅん……」
和彦は露骨にため息を吐いた。
「約束を守れないなら、もう遠出の外出は禁止にするぞ」
最初のコメントを投稿しよう!