貴女の涙をちょうだい

10/11
前へ
/11ページ
次へ
 「どうして?」  (あゆむ)は不思議に思って、フローラの顔を見る。フローラは笑顔で歩の問いに答える。  「これには私の涙を溜めておいたの。6年前に彼女に涙の大事さを教わってから、彼女に恩返しがしたくって、次会った時に渡せるように落ちていた小瓶に入れておいたの。」  小瓶には限界まで涙が溜められていた。  「どうして、それをくれるの?」  歩は先ほどまで泣いていたことより、フローラの行動に対する疑問の方が大きくなっていた。  「彼女もきっとそれを望んでいるわ。それに歩くんはもう私にとっても大事な人だもの。涙をあげるのには十分な理由だわ。」  笑っていたフローラは今度は申し訳なさそうに言う。  「本当はもっと早くにあげれば良かったのだけれど、どうしても歩くんとの時間を終わらせたくなくて。意地悪をしちゃった、ごめんなさい。」  フローラは歩に対して頭を下げた。  「ううん、ありがとう、フローラさん。」  歩は首を振ってフローラにお礼を言った。  「歩くんは優しいね。ほら、それを持ってお家に帰りなさい。運動会は明日なんでしょ?」  フローラは歩に小瓶を持つよう促す。  「うん、ありがとう。早くお母さんにあげなくっちゃ。」  受け取った歩はしっかりと小瓶を握りしめ、フローラに「またね。」と言い、その森を後にした。フローラは「またね。」と返事をしてから、歩の姿が見えなくなるまで笑顔で手を振っていた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加