2人が本棚に入れています
本棚に追加
歩が見えなくなった後、フローラはまた大きな石の上に腰掛けた。
「あーあ、あげちゃった。これでもう一度彼女、彩香に会えた時に恩返し出来るものがなくなっちゃったなー。」
フローラは残念そうにそう言うが、表情は笑顔のままだった。
「ちょうどいい小瓶なんて見つからないし、そもそも人間一人分の涙なんてもう二度と溜まりそうにないわね。私の涙で歩くんのお母さんが元気になればいいけど。もう何年も前のものだし、どうして妖精の涙が人間に効くのかも私には分からないし、考えるだけ無駄ね。」
フローラは立ち上がる。
「それにしても、早く別の場所に移動しなきゃね。妖精がこの森にいるってことが分かれば、どんな人間がやってくるか分からない。彩香を待ち続けて6年も経っちゃったけど、とうとうこの森ともお別れか。歩くんには最後まで嘘をついちゃうことになるけど……」
フローラは生きていく上で必要な道具をまとめて、その森を後にする。
「歩くん、元気でね。」
フローラの目から一粒の涙が流れ落ちた。
最初のコメントを投稿しよう!