2人が本棚に入れています
本棚に追加
歩は家を出る直前までドキドキしていた。
(おばあちゃんにバレないようにしないと……)
おばあちゃんから水筒と帽子を受け取った歩はしばらく歩いて、おばあちゃんが見えなくなるまで行くと、おばあちゃんに言った遊び相手の大智くんの家がある方向とは逆に向かって歩いた。
***
時は小学校での昼休憩の時間に遡る。
「あのさ、俺、おじさんに聞いたんだけどさ。近くにでっかい森があるじゃん。そこにはさ、妖精がいて、会えば何でも願いを叶えてくれるんだって。おじさんが小学生の時に会ったことあるんだって。それで運動会の『かけっこ』で一番になったって言ってた。それでさ、今日の放課後、皆で探しに行こない?」
大智が歩を含む4人の友達を校舎裏に集めて、先生にバレないようにひそひそと話した。グループのリーダーである大智があまりにも真剣に話すものだから、皆がその話に親身になった。グループの一人である翔が口をはさむ。
「俺もその話、姉ちゃんに聞いた。でも、何でもじゃなくて、病気を治してくれるんだって言ってた。」
「ふーん、とにかく行ってみない?」
大智は翔の言ったことにあまり興味がないようだった。願いを叶えるうんぬんより、森へ行ってみたいというのが本心のようだった。なんにせよ、誰も森へ向かうことには反対することはなく、皆が乗り気だった。大智は最後に「じゃあ、森の近くにあるバス停で集合な。遠出になるから、母ちゃんには帰るのは夜遅くなるって言っておけよ。」と言って、その集会を解散にした。
***
歩はその話を聞いて一番に母親の病気を治すことを考えていた。ただ、歩は近くの森は深く暗いので行ってはいけないと、おばあちゃんに口酸っぱく言われていた。近くの森が危ないことは周知の事実だったので、大智らが親に「行く。」と言えば、止められるであろうことも歩は分かっていた。歩がそれを助言しなかったのは、私欲の願いを叶えるため一人で森に行く必要があったからだ。
おばあちゃんに気づかれないために遠回りして向かった森の入り口付近のバス停には案の定、大智らを含む誰もいなかった。歩は一歩、また一歩とだんだん光の入らなくなって暗くなっていく森の中へと入っていった。
最初のコメントを投稿しよう!