貴女の涙をちょうだい

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 森の中に入って直ぐは整備された道がしばらく続いていた。(あゆむ)は立ち入り禁止の看板が立つ先へは進まず、ひたすらに人が歩いたことのある道だけを歩いた。歩は進めるところまで進んで、見つからないようなら大人しく帰ることを決めていた。それでも一縷の望みにかけて、必死に妖精を探した。  (見つからない……)  歩は水筒を開けて斜め上を向くように水分補給をする。幸か不幸か、ここまで誰にも会わず小学二年生は林道を歩き続けた。そんな無謀とも思える行動をお天道様が救うように、上を向く歩の視界に一筋の強い光が木の葉を抜けて地に刺さるのが見えた。歩はその光に興味をそそられて、正規の道を逸れた脇道を歩き出した。  草木を分けた先に光の当たる大きな石が見えた。その石に小さな女の人が一人座っている。人というには少々見ない肌と髪の色だが、おおよそ人と呼ぶに正しい見た目だった。大きく違うのは、背に羽は生えていたことくらいだ。体には葉で作られたような森に住むにはちょうどいいものを纏っていた。  「妖精さんだ……」  歩は嬉しいはずだが、ただ唖然と心の声が漏れるように口を開いた。その声に気が付いたのか、こちらを向いた妖精を見て、歩は我に返った。妖精は逃げることなく、歩のことを見つめている。歩は妖精の座る大きな石の方にゆっくりと進みながら言った。  「僕のお母さんの病気を治して欲しいんだ。お願い、妖精さん。」  それを聞いて妖精は背の羽を羽ばたかせて、歩の手が届くほどの距離まで飛んでくる。歩の近づくほど、妖精のその小ささがハッキリとしてくる。歩の頭と妖精の全長がほぼ同じくらいだ。妖精は程良い距離まで詰めて、空中で立ち止まる。  「あなた、小学生?ダメよ、こんなとこに入ってきちゃ。」
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