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妖精はそれから、いくつか小言を並べて歩を叱った。
「分かった?それじゃあ、気を付けて帰るのよ。」
最後にそういって、妖精は歩に背を向け、元居た大きな石の方へ戻っていく。
「待ってよ、妖精さん。お母さんの病気を治して欲しいんだ。妖精さんなら出来るんでしょ?」
歩は離れる妖精の後ろを追いかける。妖精は背を向けたまま、答える。
「誰に聞いたのか分からないけど、そんなこと出来ないわよ。私たちはただの妖精だもの。何でも叶えてくれる神様じゃないわ。」
「でも、お母さんが。」
ここまで必死の思いで歩いてきた歩の目に大粒の涙が溜まる。声のトーンが落ちた歩を心配してか、妖精はチラッと後ろを見る。妖精を追いかける足を止めてしまった歩に妖精が声をかける。
「確か、妖精の涙には人間の病気を何でも治す効果があるとは聞くわ。ただそれは人間が言ってることだから、私はそれが本当かどうか知らないけれど。」
歩は泣き止むまではいかないが、途切れ途切れに言う。
「じゃあ、妖精さんの、涙、ちょう、だい。」
妖精は困った様子で答えた。
「それは無理よ。私たちだって人間と同じで感情があって、涙を流すわ。泣いてと言われて泣けるものではないもの。それに……」
妖精は今度は昂然とした態度で言う。
「それに、涙は女の武器だもの。」
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