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結局、歩はその日妖精の涙を手に入れられることは出来ず、森を出た。おばあちゃんにバレないように日が落ちる前には家へと帰った。ただ妖精は涙を流すことはなかったが、歩の涙が止まるまでは歩の傍を離れることはなかった。
「ただいまー。」
おばあちゃんが「おかえり。」と言って、歩を出迎えた。
「遊びは楽しかったかい?」
「うん。」
歩は素っ気なく返す。
「おや、何かあったかい?お友達とケンカでもしたかい?」
「ううん。」
おばあちゃんは歩の顔色を伺う。
「そうかい。それなら、いいんじゃけど。」
歩は母親の彩香の部屋を訪れた。
「ただいま、お母さん。」
「歩、おかえり。どうしたの?元気ないみたいだけど。」
「何でもない。」
歩は今日のことを彩香には言わなかった。そのまま、夕食の時間まで歩は彩香との何気ない話をした。今日学校であったこと、友達と話したこと、給食のこと。
彩香がベッドで寝たきりになったのは、歩が生まれてから三年後のことだった。先天性で父親譲りのものだった。それからずっと歩と彩香の時間はこの部屋で話している間だけのものとなってしまった。父親は単身赴任で海外で働き、幼稚園の送り迎えも様々な家事も彩香の母であるおばあちゃんが代行した。歩にとって当たり前のことでも、小学生になって周りの子供たちと過ごす内に当たり前ではないことに気づく。そんな思いが募っての歩の今回の行動だった。
「おばあちゃん、お母さんはいつ元気になるの?」
歩は夕食になるといつもおばあちゃんに聞いていた。
「もうすぐだよ。」
おばあちゃんはいつも決まってこう答えた。
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