2人が本棚に入れています
本棚に追加
歩は次の日も、おばあちゃんにバレないように森へ入った。歩は昨日と全く同じ道を行き、全く同じ脇道へ逸れた。
ガサッと昨日の場所に繋がる最後の草木をかき分ける。
「コラッ!昨日、あんなに注意したでしょ!」
かき分けた先には既に昨日の妖精が歩の目前にまで近づいていた。
「はぁ、昨日も言った通り、涙なんて簡単にでないわよ。しかも、人間一人分なんてそう手に入らないわよ。」
そう言って、妖精は定位置のような大きな石の上に戻って座った。歩はその近くまで歩く。
「うん、だから、今日は絵本を持ってきたよ。先生が泣いたって言ってたやつ。」
妖精は唖然とした表情だった。
「今から妖精さんに読んであげるね。」
歩は自信満々に絵本を手に持って、その絵が妖精に見える所まで近づいた。妖精はまだ歩が何をしたいのか理解できていなかった。
「ちょ、ちょっと待って。歩くんは私を何歳だと思ってるの?」
「分かんないけど、先生が泣いたって言ってたから。妖精さんもきっと涙を出してくれるはず。」
絵本を妖精に向けて差し出す。絵本には歩が読めるように、漢字にフリガナがふられていた。
「わざわざ読み聞かせをするために、フリガナもふったの?」
「うん、先生に書いてもらった。妖精さんに涙を流して欲しくって。」
妖精は目を丸くしていた。
「僕、決めたんだ。妖精さんから涙を貰うって。お母さんに運動会を見に来て欲しいから。お母さんに学校での僕を見せてあげたいから。」
歩の絵本を持つ手は力強く握られていた。
「だから、お願い。妖精さんの涙をちょうだい。」
妖精は歩を追い出すことを諦めたようだった。
「フローラ。私の名前はフローラよ。歩くんに付き合ってあげるわ。ただし、ここのことは他言無用よ。」
「他言無用?」
歩は言葉が分からなかったようで、フローラに聞き返す。
「だれにも言っちゃダメってこと。守れなかったら、もう私はここには来れないから。約束よ?」
「うん、分かった、約束。」
歩は笑って絵本を開いた。
最初のコメントを投稿しよう!