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数日間、歩はフローラの元を訪ねた。休日や実際に友達と遊ぶ日もあったから連日ではなかったが、何もない日は必ず森へ向かった。フローラの涙を得るために、歩は色んな絵本を読み、歌を歌い、絵を描いた。「こちょばす」などの強行手段も試したが、フローラが涙を流すことはなかった。
「今日は何を持ってきたの?」
フローラは大きな石の上から歩に声をかける。
「うーん。」
歩は煮え切らない回答で、両手に何かを包んでもじもじとしていた。
「どうしたの?」
フローラが歩に近づく。
「わぁ!」
歩は近づいてくるフローラに向けて、両手に包んでいたおもちゃの芋虫を投げた。フローラはサッと飛んでくるおもちゃの芋虫を避ける。
「驚きはしたけど、泣きはしないわね。」
「はぁ。」
歩は今日も失敗したことに落胆して、ため息を吐いた。落ち込む歩にフローラが言う。
「涙っていうのはこういう時に流すものではないのよ。涙は大事な時にとっておくものなの。」
フローラは大きな石の上に戻って、話を続ける。
「これは人間の女の人に教えてもらったことだけどね。妖精の涙が万病に効くってことを知った人間が、妖精を襲うようになって、私たちは脅えて暮らしていたわ。そんな時に、その人に会った。その人は『あなたたちは人間のために涙を流す必要はないわ。あなたたちの涙はもっと大事にされるものよ。涙は女の武器って言うしね。』って言ってくれたの。それから私はいつもその言葉を胸に生きてる。」
歩は黙ってその話を聞いた。
「私の願いが叶うなら、もう一度、彼女に会いたいわ。」
フローラは笑った。歩もその笑顔につられて笑う。
「お母さんも同じこと言ってた。おばあちゃんにそう教えてもらったって。だから、僕にも子供が出来たら、教えてあげてって。」
「良いお母さんなのね。」
「うん、世界一のお母さんなんだ。」
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