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それからまた数日がたった。歩はまだフローラから涙を手に入れてはいなかった。その日、歩が森を訪れたのは一週間空いてからのことだった。
「久しぶりじゃない、歩くん。どうしてたの?もう来ないかと思ったわ。」
「何でもない。」
歩はいつもの場所についてから、ずっと下を向いたままだった。
「そう。」
歩の生返事にフローラも素っ気なく返した。いつもなら、直ぐに何か披露してくれる歩が立ち止まって動かないことにフローラは心配になった。
「そういえば、運動会はいつなの?運動会にお母さんを連れていきたいんでしょ?」
「うん。」
歩の返事は相も変わらず中身がなく、落ち込んでいるようだった。
「お母さんの病気を治すんでしょ?」
「うん。」
何を言っても意味がないかとフローラが諦めかけた時、歩はボロボロと涙を流し始めた。
「でも、もう、運動会、明日なんだもん。運動会の練習で何日も来れなかったし。もう無理だよ。」
歩は堰が切れたように溜め込んでいたものをフローラに対して吐露し始めた。
「お母さんはいつもベッドの上だし。おばあちゃんに聞いても『もうすぐ』ばっかりで、いつ治るのか分かんないし。お父さんは全然帰ってこないし。フローラさんは涙をくれないし。大智くんは噓つきだし。」
それからしばらく泣き続けた。
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