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涙を流す歩にフローラが声をかける。
「歩くん、こっちに来て。」
フローラは歩に背を向けて、光の指す大きな石の方まで戻っていく。その背中は最初に出会った時の拒絶ではなく、歩に安心を与えるものだった。歩は黙ってフローラの後ろをついていく。
「ほら、ここに座って。」
フローラが指すのはいつもフローラが座っている大きな石の上だった。そこに歩を座らせる。フローラも歩に寄り添って同じ石の上に座る。
「前にね、涙は大事な時に流すものって話をしたわよね。人間の女の人に教えてもらったことだって。でも、私はそれまでずっと泣き虫だったから、すぐに泣かなくなるなんて出来ないと思ったの。だからね、私、聞いたの。どうしようもなく涙が溢れてしまう時はどうすればいいの?って。そしたら、彼女、笑って『その時は泣いていいんだよ。それはきっとあなたがその相手を大事に思っているってことだもの。』だって。歩くんもね、泣きたい時は泣いていいわ。あなたにとって、お母さんも、おばあちゃんも、お父さんも、お友達も、ひょっとしたら私も、大事な人だってことだから。あなたが泣き止むまでは私が傍にいてあげる。」
歩は膝を抱えて下を向いた状態でしばらく時間が経った。落ち着いた歩の様子を見て、フローラは「ちょっと待っててね。」と一言残して、森の深い所へと飛んで行った。泣き止んだ歩は差し込む光の方に目線を上げる。昨日の夜は雨が降っていて、葉にはその雨粒がまだ残っているようだった。光が雨粒で煌びやかに見える。それは涙の後の澄んだ瞳のようだった。
「んー、お待たせ。ふう、重たかった。」
フローラがゆっくりと飛び、大きな石の上に立つ。その手には歩の手のひらサイズの小瓶が抱えられていた。それでも、フローラにとっては大きく重たいもので両手を使って持つのがやっとだった。
「これ、人間の一人分の妖精の涙よ。」
そう言って、フローラは小瓶を歩の方に差し出した。
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