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深夜バス1/2(飴玉ドロップ)
0時をまわった深夜バス。
闇夜の中に、ゆっくりとした時間が流れる。
今週は仕事の人間関係で疲れた。
誰にも会いたくない気分。
そんな週末には何時も深夜バスに乗る。
窓から見える景色は、どこの街もだいたい同じだが
乗車する時の気持ちが違う。
今日はどこへ行くんだろう。
ミステリーツアー。
着いたときに行き先が分かる。
何時もなら家で就寝の時間だ。
でも眠れない夜もあるだろう。
だからゆっくりと目を閉じる。閉じるだけでもいい。
今週の疲れよりも、もっと深い意識へ心を沈み込ませて。
椅子にもたれかかり後頭部を座席背もたれに委ねる。
車内は暖かく目を閉じるには、ちょうどよい温度。
膝下のカシミア色の毛布を少し握って乗車前にコンビニで購入した
小さな飴玉と缶ビールをなめる。甘くて懐かしい味だ。
口の周りには、砂糖の甘さとビールの泡がピリピリとはじけ
子供時代に屋台でベタベタになりながら食べたリンゴ飴を思い出す。
カラフルな透明のドロップ。黄色、緑、オレンジ…。
車内は暖かいけどのどが渇くから寝る前に少しだけなめる。
夢の中でもドロップ色の小さな花々が可憐に咲き乱れている。
その甘い香りを嗅ぎ一本を手に持った。
七宝焼きみたいな温かい色をした花びらのような塊の内側が蛍の尻のように
弱い光で揺らめいている。光をたどって柔らかな誕生石で作られたみたいの
窓の景色を覗き込むとさっきまで怒られ半ベソをかいていた会社のビルが
小さく小さく沈んでいた。「あ、まだ残業してる人がいる。」
ビルの中の小さな窓には、これまた小さな熊のぬいぐるみがいて
ひたすら誰かに向かってペコペコ頭を下げながら謝っている。
「熊もたいへんだな。」
少し目尻がさがり口まわりの筋肉がゆるむ。
「今週はずっと緊張したままだったな…。」
自分の姿と重ねた。
ふうっとため息と身体の奥底から温かさがあふれ出る。
暫くするとアナウンスがあり目的地へ到着したそう。
目を開けると、そこは海の底らしい。バスの強いライトが
群青色の深海の砂を照らしていた。見たこともないような
カラフルな蛍光色、ネオンサインのような
生物達がうごめいていて恐る恐るこちらを伺っている。
続(1/2)
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