いちごみるく

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【 いちごみるく 】 「飲む?」 なんてことを軽く言うキミ。 そのストローはさっきまでキミが咥えていたもの。 「いらないよ」 「なんで? 牛乳嫌いだった?」 後ろから抱き締められて、喉の奥が乾く。 飲みたい 飲みたい 飲みたい ねぇ? どうして僕の心を荒らすんだ? わかっててやってる? カラッとシンクにプラスチックが散る音。 彼はミルクにガムシロップを入れて飲む。 「変なの」と最初は思ったけど、今では何とも思わない。 「おかえり」 握りしめていたスーパーの袋が落ちる。 一緒に食べようと買ってきたもの。 言わなきゃ。 「一緒に食べよう」って。 僕の口は塞がれている。 いちごではない。 ほのかなミルクと甘いシロップの香り。 シンクに手を付き、彼の体温を受け入れる。 目の端には床に落ちた袋と、数センチ残ったミルクが目に入る。 視界が混じり、弾け、感覚が薄い苺色に染まる。 「ただいま」 あ、練乳買って無かったかも……。
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