イカアバター<ikavatar>

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 イカの眼は、脊椎動物と同様の構造を持ち、視覚認識の能力は、ほぼ人間と変わりない。彼らの脳では、これだけ大量の視覚情報を処理しきれないんじゃないか、ともいわれている。  でも、これだけの視覚情報があれば、人工知能を経由して人間の知覚処理に変換することで、高精細映像を得ることができるわけだ。  一方で、運動器官も発達していて、海中を俊敏に移動したり、触腕でものを掴む繊細な動作も可能だし、なによりも神経系が大きくて加工しやすい。  その上、発光機能も持っているから、深海で補助的な照明として使える。  深海を安定して探索するためには、環境の変化を敏感に捉えることができる感覚器官と、迅速に行動ができる運動器官を兼ね備えていることが必要だ。  まさにイカこそ、この役目にうってつけの生き物だといえる。  なんだ、反論か?  まあ、この話が終わってからにしてくれ。  これらの能力をバランスよく持つ種類を、やっと見つけることができた。最近、マリアナ海溝付近で捕獲されて繁殖に成功した、通称「シロスジアオヤリイカ」だ。見た目は日本近海のヤリイカと見分けがつかないんだが、習性がまったく違う。  次に行き詰まったのは、デバイス自体の不安定さだ。デバイスの知覚・感覚データをログに残して後でピックアップするスタンドアロン方式の設計だったから、生物自身に行動の選択を委ねるしかなく、生きて帰る可能性が低い。生き延びたとしても、後から捕獲するのは難しい。  そこで考えた。  医療科学の分野では、いくつかの技術の応用が進んでいた。全盲の患者に視覚を取り戻すためにカメラが捉えた映像を視神経の信号へと変換したり、その反対に、視神経の信号を映像として解読する試みが行われていた。筋委縮症や各種の麻痺などの治療で、電位差を応用して筋繊維を脳波で動かす研究も、それなりに成果が出ていた。  で、これらを結びつけて、人間がデバイスとなる生物を操作する、という方式をとることにした。これなら、効率的に目的の場所へ辿りついて、危険を回避しながら必要な情報を探索、収集、送信するまでを一手に解決できる。  最後にぶちあたった課題は、深海の大容量通信だ。海中では電波の減衰が激しくて、低周波帯の電波しか利用できない。そこで、ミズクラゲやオワンクラゲなど小型のクラゲに、マイクロサイズの中継装置を埋め込んで、数mほどの距離で電波をリレーして順繰りに仲介する通信網を構築した。データを多層に分解圧縮して複数経路で送信し、深海淵に敷設した設備に集約して、そこから光ファイバー経由で海上の観測船に繋ぎ、欠損部分も含めて復号化する。これで、超高速の双方向通信ができるようになった。
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