5月末 小さな嫉妬ともう一人のいたずらっ子

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……omi……omi……omi…… 静まり返ったエレベーターが動き出す。 さっきまで普通だったのに、アイツは俺に背を向けたまま一言も話さない。 いつも無駄に姿勢のいい背筋がわずかに曲がり、肩が落ちたアイツの背中。 エレベーターの中ってのは… こんなにも静かだったのか。 「…邪魔されたって思ってんのかよ?」 自分のたいしてデカくもない声が、動く直方体の中に静かに響いた。 アイツは相変わらず、うつむいたまま何度か首を横に振った。 そして、アイツが何も話さないまま、エレベーターはロビーに着き、俺たちは無言でホテルを出た。 「おい、待てよ」 俺の言葉を無視して、アイツはタクシーを捕まえようと、歩道から身を乗り出して手を上げた。
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