俺は泣いてない

3/3
前へ
/3ページ
次へ
再び気が付いたのは、 真っ暗で重苦しい場所であった。 指ひとつ動かせないところを見ると、 どうやら埋められたようだ。 結局、実行犯は簡単に組織に消された。 青い稲光は、 シャワー中に電気を流されたのだろう。 おそらく仲間も近い所に埋まっているはずだ。 思い起こせば、人生ロクなもんじゃなかった。 借金を作って逃げた父も、 俺を捨てて他の男と出ていった母も、 仲間面(なかまづら)してくる施設の連中も、皆嫌いだった。 自分の居場所は組織(ここ)しかなかったのだ。 いや、本当は知っていた。ただ怖かったのだ。 やさしく差し伸べられた手が、 容易く裏切るのではないか、 またその手を振り離されるのではないか、 金以外の何も信用できなかった。 だから、自らその手を振り払ってきた。 結局のところ、 自分はまっとうに生きられなかった、 ただそれだけのことだった。 すでに無い眼窩には雨水が溜まり、 どこか物憂げに泣いているようにもみえた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加