俺は泣いてない

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泣けなくなったのは、何時からだろう。 大人になればなるほど、泣くという行為が 恥ずかしいと思うようになる。 たとえそれが、近隣者の死だったとしても、 みな耐え忍ぶ姿が美しいとされるのが、 日本の美学なのだろう。 だが、 今回ばかりは泣かずにはいられなかった。 あまりに急な事態に 思考がついていけなかったのかもしれない。 大粒の涙を流して、 周りが見えないほどに泣きわめいていた。 わたしは大人げなく大声で叫んでいたのだ。 『目ェガぁああああぁぁ!!!!』 どうやら仲間がしくじり、 特殊班が侵入してきたようだ。 目の前にある大金を見ることもままならず、 わたしはガスマスクをした警官らによって あえなく捕まった。 地方での銀行強盗とはいえ、 催涙ガスまで使うとは反則だ。 そのまま大型のバンに護送され、 仲間が次々と詰め込まれた。 未だに朦朧として、目が開かない。 これからいろいろ尋問され、 TVでみるようなクサい台詞(せりふ)で、 泣き落としでもさせられるのだろうか。
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