俺は泣いてない

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護送車はいつまでも走り続けていた。 どこに連れていかれるのだろうか。 ようやくまばらに開けられるようになった目で 辺りを見わたすと、 ガスマスクをして同行していた警官の足元には、 大きめのアタッシュケースが 何個も置いてあった。 実はわたしたちは(おとり)で、 それをいち早く捕まえようと駆け付けた この警官らこそが、 組織が差し向けた仲間だった。 着いた先は、山奥の廃れたキャンプ場。 隠れ家のひとつだ。 マスクをした仲間はソレを外すことなく ケースをアジトへ持っていく。 どうやら催涙ガスは衣類などにも付着し、 他のものにも影響を与えるらしい。 早々にシャワーを浴びるように促された。 1度に3人は入れる簡素なシャワールームには仲間の2人も居た。 とりあえず生きているという安堵感と、 作戦の緊張から解き放たれ、 微かに流れ出た涙は、 シャワーに紛れこませておいた。 下っ端である我々の取り分など たかが知れているが、それでも 1度に手に入れる金としては高額である。 この世界に足を入れた日から、 何も自分で考えて生きてこなかった。 不意に電気が消えると、 青い稲妻が異様に近くで見えた気がした。 雷が落ちたような音はしなかったが、 同時に何かぶつかるような音が隣りで聞こえ、自分も気を失った。
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