私が泣いた理由

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大嫌いな父が死んだ。 嫌われ者の父が死んだ。 臨終の時 誰も間に合わず 嫌われ者の父らしく一人で旅立った。 何でも知ってるふりをした父。 有言不実行の父。 自分より弱い者を罵り 自分より強い者にはへりくだる父。 外面はよかったが すぐにその仮面は剥がれ落ち 皆 父から離れていった。 自分の思い通りにいかないと お前が悪い、あいつが悪い、世間が悪い、社会が悪いと責任を擦り付けた。 読経の流れる中 誰一人泣くものはいなかった。親族さえ涙のひとつも流さない。 母はハンカチで口許を押さえてるだけで 泣いてなどいない。 横暴だった父に 母も私も何度も殴られ蹴られた。言葉の暴力は毎日浴びせられ精神が壊れなかったのが不思議なぐらいだ。 そんな父が倒れた時 正直ほっとした。 一度も病院には行かなかった。このまま 良くならず逝ってくれることばかり祈った。 父の遺影は 随分 若い時の写真だ。 この時の父に言われたことを思い出す。まだ高校生だった私に「お前は 母さんに似てブスだな…俺に似ればよかったのに残念だな」と言って笑ったんだ。 棺の中で眠る父に花を添え最後のお別れをする。こんなにじっくり父の顔を見たのは いつぶりだろう。 そして 私は気づく…… どんなに嫌いな父でも 父がいなければ私は ここに存在していなかったことに……この人は 私の親なのだ…… 出棺のとき、私は泣いた。 子どものように わんわんと声をあげて泣いた。悲しくて泣いた理由じゃない。 父の最後に皆の前で泣くことが 最初で最後の親孝行だから………
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