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突如、クジラがぶわっと潮を吹いた。細かい水が勢いよく吹き上がり、僕らの脇を落ちていく。僕は、水の粒から自分を守ることも忘れて、クジラの行方を追っていた。
なんてきれいなんだろう。
ふと気づくと、なめらかに動かされる尾びれが僕のすぐ近くまできていた。
触りたい――。
僕は吸い込まれるように手を伸ばした。
あと少しで手が届く――。
「触っちゃダメだ!」
僕がその尾びれを掴んだのと、叔父さんが叫んだのはほぼ同時だった。
叔父さんの警告もむなしく僕が尾びれを掴んだ瞬間、それまでゆったりと進んでいたのが嘘のように、クジラはその巨体をじらし、暴れ始めた。僕を振り払うように、左右上下に激しく体を動かす。クジラは急激に泳ぐスピードを上げ、僕はみるみる叔父さんと離されていく。
ここから落ちたら、どうなるんだろう?
ぞっとして尾びれを掴む手に力をいれるけれど、クジラの力にかなうはずない。クジラが大きく体をよじり、一層強く尾びれをぱーん、と跳ね上げたと同時に、僕はそれ以上耐えることができなくて、しゅるしゅると空の中に落ちていった。
「わああああ」
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