月とクジラ

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「空にクジラを見に行こう」 真夜中、突如僕の部屋にやってきた叔父さんが、ワクワクした声でそう言った。 「空に?」 「そうだよ。さあ、行こう。まずは雲トビウオを捕まえなけりゃ」 二十一時にはベッドに入ったもののなかなか寝付けずにいた僕は、叔父さんに手を引かれ外に出た。今日は満月。昼から降り続いていた雨はすっかり止み、濡れた地面にはひんやりとした空気が漂っている。 「月を目指そう!」 そう言うと、叔父さんは軽快なリズムで駆け出した。僕は慌てて追いかける。 「待ってよ!」 叔父さんは、ママの弟で、世界中を旅している。バックパッカーってやつらしい。帰国するたび、世界中で見つけた不思議なものを僕にくれる。ママは呆れ顔だけれど、僕はそんな叔父さんが大好きだ。 しばらく走ると、叔父さんがぴたりと足を止め、「あったぞ!」とにっかりと笑った。 足元には、大きな水たまり。満月がすっぽりと映って、ゆらゆらと揺れている。 「見てろよ」
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