灰と化して

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「はい。今までいろいろと、お世話になりました」 「まるで今生の別れみたいな言い方だな」  眉根を下げて困ったように笑う叔父さんを、僕は一瞬視界に入れてすぐさま逸らす。  今日で会うのは、最後にするつもりだった。 「……けむい」  ドラム缶から出た煙を避けるように、背を向けて袖で目元を拭う。 「水を持ってくるよ」  叔父さんはそう言って、家の中へと戻っていく。  僕に気を遣って、叔父さんはわざと僕を一人にしたのだろう。好きな人にフラれ、離ればなれになることに、哀愁を感じているとでも思っているのかもしれない。それは間違ってはいなくとも、それが叔父さんのことだとは露ほども思っていないはずだ。  もう一度、揺らぐ視界を袖で拭う。  確認のためにドラム缶の中を覗き込むと、火はすでに消え去っていた。中に残されているのは、黒くなった紙片だけ。だけどよくよく見ると、僕の名前の一文字が焼け残ってしまっている部分があった。  それを見て、僕の中にふいに罪悪感がこみ上げる。この手紙を書く時、叔父はどんな気持ちだったのか。メールじゃなくて、残る手紙にしたのはどうしてなのか。僕のことを考え、想って書いてくれたのだったとしたら――  僕の心拍数は一気に跳ね上がる。後悔が今更のように押し寄せていた。  なにもかも燃え尽きるかと思っていた。  それなのに手紙を燃やしても、この感情までは灰にすることはできなかった。
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