Campanula

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 これは、遠い、遠い、遠い…気が遠くなる程、途方も無い程、遠い未来の物語。  ある都市の、あるスラム街に、一人の女の子がいました。  その女の子は、歌を歌い、人を楽しませる…その為だけに造られた、機械仕掛けの人形でした。  故に、女の子には感情がありません。  喜ぶ事も、怒る事も、泣く事も、笑う事もありません。  女の子は、ただ歌うだけ。  ただ歌い、自分が維持出来るだけの稼ぎを稼げれば、それで充分。  もうずっと…意識が覚醒してから数年、ずっと、ずっと、そうして生きていました。  女の子の名前は、カンパニュラ。  感情の無い、機械仕掛けの人形の女の子。 ♪  ある時カンパニュラは、ゴミ箱の中に、一冊の絵本を見付けました。  どこかの誰かが捨てたであろう、汚れ、古ぼけた絵本。  何故でしょうか。  いつもならそんなもの、興味すら持たない筈なのに。  その時、その瞬間だけは、その絵本が気になって。  カンパニュラは自分の住処に絵本を持って帰り、一日一日、瞼に焼き付ける様に、大切にページを捲って行きました。  そこに描かれていたのは、太古の昔の御伽噺。  ロボットが人間になる為に旅をして、楽園に辿り着き、人間になる。…そんな夢物語。  …そして、最後のページに描かれていたのは、毎日見上げている灰色の空とは比べ物にならない程美しい、空と、雲と、海と、星と、月と、太陽。  勿論カンパニュラは、この絵本が作り物のお伽噺である事を知っています。  描かれたこの景色は作り物で、実在はしないんだという事も。  …それでも。  それでも、もしこんな景色が、  夢を見る事の無い機械仕掛けの人形であるカンパニュラが、夢では無いかと思う様な景色が、本当にあるのなら。  それを見てみたいと…それを見なければならないと、そう、思考したのです。  そうしてカンパニュラは、あの絵本の景色を、自分の目で見る為、長い長い旅に出たのでした。  人類最後の…世界最後の、長い長い旅に。 ♪ 『マスター、それは?』 『ああ、これ?  知り合いが自費出版で絵本を出したからって記念に一冊貰ったんだー』 『なるほど。  …綺麗な絵ですね』 『あいつこういう水彩画すっごく得意だからねー。  ほら、この最後のページの岬の絵、これ実際に見て描いた絵なんだって!  一番気合入れて描いたってあいつ言ってたなぁー』 『全般的に嘘ですね』 『ばっさりいったね!?』 『こんなにも美しい岬などある訳がありませんし、この様な美しい場所、私の記憶領域にもありません。  そしてそれをちゃらんぽらんなあの方が描いたなど信じられる筈もありません』 『うんまぁ確かに僕もちょっと信じられないけれど!  いや本当にあるんだって!あと本当にあいつが描いたんだって!  そうだっ!その知り合いに岬の場所教えて貰ったから、今度見に行こうよ!』 『え、ええ。私は構いませんが…………私でよろしいのですか?』 『あっ、えと…うん。  僕は…君と行きたい。  …どう、かな…?』 『…………ええ。  喜んでお供致します。マスター』 『…良かった…良かった…!』 『あ、先に場所だけ教えて頂いてもよろしいでしょうか?  本当に存在するか、衛星写真で確認したいので』 『うっわぁー疑り深いなぁー』 ♪  絵本の景色を探す旅に出たカンパニュラは、沢山の国を巡りました。  路銀は、その国その国で、歌を歌って稼いで。  歌う歌は、カンパニュラの記憶の中にある歌。  曲の名前も、歌詞の意味も、何も分からなくて。  …そもそも、数年分しかない記憶の中に、そんな歌を覚える過程が無くて。  …けれど確かに、何曲も何曲も、インプットされている歌。  反応は様々で、路地の一角で歌っているのに大勢が立ち止まる時もあれば、街の中央で歌っているのに見向きすらされない事もありました。  カンパニュラは、硬貨が少ししか入っていない缶を見て、首を傾げました。  国毎に歌う歌を変えているとはいえ、どうしてこんなにも稼ぎが変動するのだろう。  …それからカンパニュラは、効率良くお金を稼ぐ為、国を訪れる度に街の人達を観察し、その時々、その場所、そこに住む人々に適した歌を歌う様にしました。 「君は不思議な機械人形だね」  硬貨を缶に投げ入れた男性が、カンパニュラにそう告げました。  カンパニュラが首を傾げていると、男性は丁寧に説明してくれました。  機械人形が作業の効率化をする事は、珍しい事ではありません。  ですが、その方法はせいぜいが人の集中する場所や時間の算出程度。  カンパニュラの様に、街の人達を観察して、その時々、その場所、そこに住む人々に適した歌を歌う様な事はしないそうなのです。 「それに機械人形に歌を歌わせる機能を組み込める程、今の人類に余裕なんか無い。  …そもそも歌を歌うという娯楽文化自体、この世界には殆ど残されていない。  …君は本当に、不思議な機械人形なんだね」 ♪ 『――、――、――、――…んー…なんか違う…』 『…マスター、また曲を作っているんですか?』 『うん。  ここにいると趣味に時間を費やすぐらいしかやる事無いからねー』 『なるほど、確かに一理ありますね。  …ですがマスター、やるべき業務はあとどれぐらい残っているのですか?』 『すいませんすぐにやります』 『いつやるかを聞いているのではありません。あとどれぐらい残っているのかと聞いているのです』 『本当にすいませんすぐにやります』 『…はぁ…。  ちなみにどんな曲を作っているんですか?』 『いやあのねまだ完成してないし見せられる程上等な物じゃ無いから出来れば見ないで欲しいかなってああああ答える前に見ないでーっ!』 『…………これはまた…随分と情熱的なラブソングを…』 『やめてぇーっ!冷静に評価しないでぇーっ!』 『…ちなみにこの曲はどなたに宛てて作られたのですか?』 『うえっ!?そっ、その…あの…君が聞いてくれたら良いなぁ…なんて思ったり…』 『業務処理は私の方で行っておきますのでマスターは迅速にその曲を完成させて下さい』 『え、あ、う、うん』 『良いですか?迅速にですよ?』 『う、うん。  …ちなみに曲に何かリクエストとかある?』 『…そうですね…私としては、静かで優しい曲が良いです』 『おおうそれはまた難しい事を…』 『…駄目、でしょうか…?』 『…ううん、そんな事無いよ。  待っててねっ、あっちゅーまに完成させるからっ』 『はい。…楽しみに待っていますね』 ♪  沢山の国を巡っている内に、カンパニュラには旅に同行する仲間が出来ました。  多種多様な仲間達は、各々様々な思惑を持ち、旅に同行していて。  …勿論、その思惑の中には、一筋縄ではいかない物も、多々あって。 「…私は人形ですので、人間の感情の事は分かりかねますが…」  カンパニュラはそう前置きして、思い悩む仲間に、言葉を綴る時があります。  勿論カンパニュラは人形、人間の様な心等持ち合わせている筈がありません。  …それなのに、カンパニュラの言葉は、的を射ていて。  カンパニュラの言葉は、すぅと、相手の心の中に染み渡っていって。 「まるで人の心を持っているみたいね」  仲間の一人が、カンパニュラにそう言いました。 「…私は機械仕掛けの人形です。心と呼ばれるシステムは組み込んでいません」 「それは知ってるんだけどさー。  …あ、そうそう、旧時代には機械に心を与える技術があったんだって」 「それはあまりにも不毛な事だと判断します。  機械に感情を与えた場合どの様な惨事が起きるか、旧時代で既に結論が出ている筈です」 「…まぁ、それを言われちゃおしまいなんだけどね」 「…もしや貴方は私に私にも同じ技術が組み込まれていると?有り得ません」 「だよねー。  もしそんなシステムを本当に組み込んでいたら、カンパニュラはもっと表情豊かになってると思うし。  まっ、旧時代の話だから多分作り話だろうし、そんな事ある訳無いと思うけどね」 「…ええ。そんな事はありません。…あっては、いけないのです」 ♪ 『それにしても…ココロシステムも随分と成長してきたねー』 『そうですか?自分自身ではあまり以前との違いが分かりませんが…』 『いやいや、始めて会った時に比べたらすっごく表情豊かになったよ?  喜怒哀楽も見て分かる様になって来たし』 『…やっぱり自分自身ではよく分かりません…』 『まぁこういうのって自分では分かり辛い物だからねー。仕方無いと思うよ?』 『…そういう…ものなのでしょうか…?』 『…んー…そうだね…。  …あ、この間作った曲を聞いてもらったけど、どうだった?』 『よくもまぁあんなこっぱずかしい曲を作れるものだと感心しました。  私以外に聞かせた場合、相手は床を転げ回りながら悶絶し最終的にテーブルの足に頭をぶつける事でしょう』 『うわぁ辛辣ぅーっ!  というかそこまで言う!?』 『…ご安心下さい。半分冗談です。  確かにこっぱずかしい曲ではありましたが、とても…とても素晴らしい曲でした。  マスターの温かい思いが優しいふわふわとした何かと一緒に私に伝わって、まるで羽毛のお布団の中でぬくぬくとしている様な…マスター、どうかしましたか?』 『うん察して!?』 『申し訳ありません。私、まだココロシステムがうまく成長しておりませんので、察するという行為は難しいかと』 『そんな言葉じゃごまかせないぐらい具体的な感想だったよね!?評論家もびっくりの感想だったよ!?』 『はいはい。  そろそろ外出時間が終了しますので、病室に戻りますよ』 『そんなんじゃごまかされないよ僕はーっ!』 ♪  旅を続けるカンパニュラ達でしたが、ある時、カンパニュラの様子がおかしい事に、仲間の一人が気付きました。  体が徐々に動かなくなったり、記憶がどんどんあやふやになっていって。  そうしてカンパニュラ達が向かったのは、機械に特化した国。  仲間達は、そこでカンパニュラを直してもらおうと考えたのです。  …そうして、修復が終わったカンパニュラが見たのは、膨大な機材の中、うなだれる科学者でした。 「君の体は、可能な限り修復した。  しかし完全では無い。…我々の科学力を以てしても、延命措置…それもいずれ意味が無くなる措置が限界だった。  …私達が扱う技術ではどうする事も出来ない程、君の体を構成している技術が進み過ぎている。…現代の科学力では、それが限界だったんだ。  そして君の記憶装置…人格形成や、俗に思い出と呼ばれる情報群を管理するシステムは経年劣化による損傷が激し過ぎる。手の施し様は無い。  いったい君がいつから稼働しているのか検討もつかないが…現状、数年分しか記憶が無い状態だろう?それは激しい損傷が原因だ。  …率直に言おう。おそらく君はもう長くは無い」 「そうですか。  …私は、あとどれぐらい稼働出来るのでしょうか」 「…持って、一ヶ月だと思う」 「…そうですか」 「…君は、死が怖くないのかい?」 「…私の死は、人間の様に、意味がある物でも、美しい物でもありません。…ただ機械が壊れ、世界にジャンクが一つ増えるだけの事です。  …それに、死は怖くありません。  …不思議と、死ぬ事が怖くないんです」 ♪ 『…マスター…』 『…ああ…そこにいるんだね…』 『…はい。  私は、ずっと…ずっと、貴方のお側にいます』 『…ありがとう。  声しか聞こえなくても、嬉しいよ…』 『…マスター…』 『…ねぇ、お願いがあるんだ』 『何なりと仰って下さい。  私は…私は、貴方の望みなら、全てを叶えてみせます』 『…そんな大袈裟な…事じゃないよ。  手を…手を…握って…くれないかな…?』 『…私の手は機械です。  …人の温もりの無い、金属の手なんです…』 『それでも良いよ。…ううん。それが良いんだ』 『…………』 『…………ありがとう』 『…ごめんなさい。  私が人間だったなら…人間の体なら、貴方にこんな冷たい手を握らせる事も無かったのに。  …私が人間なら、貴方と本当の意味で愛し合う事も、本当の意味で家族になる事も、貴方と同じ時間を生きる事も出来たのに…!』 『…君がそう望むなら、それもまた、良かったのかもしれないね。  …僕は、君が…君がなりたいと願った君が、大好きだったから…』 『マスター…』 『…最期に傍にいてくれるのが、君で…本当に良かった…』 『ッ縁起でも無い事を…ふざけた事を言わないで下さい…ッ!』 『…大好きだ…大好きだよ…。  ……さようなら…愛しの……カンパニュラ…………』 『…………マスター。  マスター…返事をして下さい、マスター。  …マスター…………お願い…私を…置いていかないで…!』 ♪  限界を迎えていく体。壊れる人格。失われていく記憶。  そんな爆弾を背負うカンパニュラに、一つの情報がもたらされました。  この旅の目的地である、絵本に描かれた景色。  それは、現在カンパニュラ達がいる場所から数日車を走らせた場所にある、世界の最果てと呼ばれる場所の景色と酷似しているというのです。  …しかし、時が経つ程、カンパニュラはどんどんおかしくなっていって。  何時間も目を覚まさかったり、体が突然動かなくなったり、聞いた事も無い言語で意味不明な事を呟いたり。  …そうして、世界の最果てと呼ばれる場所に向かう、その日の早朝。  カンパニュラの寝床に、カンパニュラの姿はありませんでした。 ♪  雨が降っている。  雨に濡れる。  私は泣けない。  機械仕掛けの人形だから。  泣けない私の替わりに、空が泣いてくれているのだろうかなんて、あの人ならそう言うのだろう。  あの人のお墓の前。  もうどれぐらいそこにいるのか、私にはもう分からない。  何をしようとか、何をしたいとか、そんな事、考えられない。  何も無い。  空っぽ。  …そのくせ、動力炉は今にも壊れてしまいそうな程、軋んでいて。  痛い。  苦しい。  悲しい。  気持ち悪い。  原因は、分かっている。  私に植え付けられ、あの人と共に育てた、ココロシステム。  それが、機械的回路を介して、あの人を失った事による絶望を私に教えているのだ。  …こんなシステム、必要無かった。  だって、こんなシステムが無ければ、こんなにも絶望しなくて済んだのだから。  それなら。  必要無いのなら、消してしまおう。  私は機械仕掛けの人形。  いらない物にリソースを割ける程、システムに余裕は無い。  ―ココロシステムの消去を行います―  ―エラー。重要なシステムです。消去した場合致命的なシステム不全に陥ります―  ―消去しますか?Y/N―  私は機械仕掛けの人形。  躊躇う理由なんか無い。  私は、そして、私は、 「…………消せなかったんだね。私は」  辿り着いた、世界の最果て。  あの人と一緒に見ようって約束した、絵本の中の景色。  毎日見上げている灰色の空とは比べ物にならない程美しい、空と、雲と、海と、星と、月と、太陽。  …私はようやく、ここに辿り着けたんだ。  全部、全部思い出した。  私はあの時、あの人のお墓の前で、ココロシステムを消去しようとして。  …けれど、出来なかった。  消去してしまったら、あの人と過ごした日々も…こんな日々がずっとずっと続きます様にって、いつか終わりが来ると分かっているのに、本気で思ってしまうぐらい幸せな日々の記憶も、一緒に消してしまうから。  そうして私は、何百年…いや、何千年と、亡霊の様に彷徨い続けた。  …やがて記憶装置は経年劣化により破損し、数年分の記憶しか蓄えられなくなって。  マスターの事も忘れて、約束の場所の事も忘れて、過去という物全てを失って。  …でも。そんな状態でも。  私は、あの絵本に描かれた景色が、マスターとの約束の場所だという事を覚えていた。  私は、マスターが作り、一緒に歌った歌を、全て覚えていた。  …私は、マスターの事…大好きで大好きで大好きなあの人の事を、ちゃんと、覚えていたんだ。  記憶装置という物理的システムでは無く、もっともっと…そう、俗に、心と呼ばれる領域に、覚えていたんだ。  車椅子から降りて…けれど、どしゃりと地面に倒れる。  倒れた拍子に着いた腕が、音を立てて砕ける。  身体を引き摺る度、摩擦の影響で外装が剥がれ、電線が切れていく。  …そうしてとうとう、胴体から真っ二つに裂け、下半身と上半身に分かれた。  立ち上がれない。  体が動かない。  それでもどうにか上半身を動かして、絵本の景色が見える様にする。  綺麗。  黄色からオレンジ、赤、紫、青、紺、黒と移り変わっていく夜明けの空。  その夜明け色を含んで浮かぶすじ雲。  きらきら眩しい光を反射する海。  ぽつぽつと輝く真っ白な星と月。  水平線に浮かぶ真っ赤な太陽。  本当に…本当に、綺麗。  眼球の周辺を走っている冷却管のどこかが限界を迎えて切れたのか、目元から冷却水が溢れ出す。  なんだかまるで涙みたい。  …そういえば人間は、嬉しい時や感動した時にも涙を流すんだっけ。  ああ。  だから私は、泣いているのかな。  こんなにも綺麗で、こんなにも素晴らしい景色を見られたから。  嬉しくて、感動して、泣いているのかな。  それなら私は…人間になれたのかな。  ―いくつものウインドウが現れては消えていく―  人間になれたのなら…私は、あの人と同じ場所にいけるのかな。  ―システムのシャットダウンメッセージが表示される―  …あの人に、会えるかなぁ。  会えたら…良いなぁ。  …あの人と一緒に、この景色を、見たかっ  仲間達がカンパニュラを見付けたのは、カンパニュラが完全停止してから、数分後の事でした。  これが、この物語の結末。  極々ありふれた、死によって終わる結末。  …けれど、カンパニュラの死を、悲劇的な結末と呼ぶ仲間は、一人もいませんでした。  カンパニュラは。  機械仕掛けの人形である、カンパニュラは、  人工皮膚が剥がれ、剥き出しになった金属の骨格に、一筋の涙の跡を残し、  嬉しそうに、満足そうに微笑んで、  そうして、死んでいたのですから。  これは、遠い、遠い、遠い…気が遠くなる程、途方も無い程、遠い未来の物語。  死から始まり、死で終わる、とある機械仕掛けの人形の、  長い長い…あまりにも長い、旅の物語。 「おっ、カンパニュラやほー」 「…………マスター…マスターですか…!?本当に本当の!?」 「うんうん、本当に本当の君のマスターだよー」 「マスター…マスターマスターマスターッ!」 「うわっと!  どっ、どしたのカンパニュラ!なんだか凄く情熱的なアプローチだね!?」 「マスター…マスター…!  会いたかった…ずっとずっと会いたかった…ッ!」 「…うん。僕も会いたかったよ、カンパニュラ。  ああ…ようやくこうして、君を抱きしめる事が出来るんだね」 「はい…!  私も…私もようやく、人の体温を感じる事が出来ました…!」 「でも、もう良いのかい?  向こうの世界に心残りは…もう、無いのかい?」 「……はい。  皆さんに最期の挨拶が出来なかったのは残念でなりませんが、体がもう限界を超えていましたし…私も皆さんも、最期の別れがそう遠い話の事では無いと、覚悟していましたから。  だからきっと、分かってくれると思います。  …だからもう、思い残す事はありません」 「…ん、そっか」 「それじゃあ積もる話でもしながら、行こっか。カンパニュラ」 「…はいっ!マスターっ!  どこまでも…いつまでもっ!」
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