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一ノ指
田島 美宇(たじま みう)は幸せな結婚をした。
夫の英明(ひであき)は優しく、義母の直美(なおみ)もよくしてくれる。不満と呼べるものは何もなかった。
「お義母さん、こんな大きなメロン…! ありがとうございます」
「いいのよ気にしないで。英明が帰ってきたら一緒に食べましょう」
直美は月に一度ほどのペースでふたりの家を訪れる。その時には必ず豪勢な土産を持ってきてくれた。
都合がつかず来れない月もあったが、そんな時にも質のいい贈答品を送ってくれる。贈答品は食べ物であることが多かったので、食費に関してはずいぶん助けられた。
順風満帆な結婚生活を送る美宇だったが、ひとつだけ悩みがある。
(今回もダメかぁ…)
ふたりの間には子どもがいない。
これまで様々に努力をしてみたものの、妊娠検査薬が望む結果を示すことはなかった。
それでも日々を楽しく過ごせているおかげで、悲観しないようにしようと美宇は考えることができる。義母が孫を催促しないことも、彼女を大いに安心させた。
ある日、美宇は英明から転勤の内示が出たと聞かされる。
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