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法則その2 『犯人の存在に気付いた人と一緒に犯人捜しをする人』は殺される
◇◇
――お兄ちゃん! 知ってる? 『犯人の存在に気付いた人と一緒に犯人捜しをする人』も殺されるっていうのがテンプレなんだよ。ほらっ! 言った通りになったでしょ!
………
……
「イルッカ。俺と一緒に誰が化け物なのか探そうぜ。そいつを吊るし上げれば、俺たちは町の英雄だ。へへへ」
ディートハルトのやつ、何も知らずに悪い顔して笑いやがって……。
ちなみにこいつは盗賊団のリーダーだった男で、自分だけが逃げ延びるために仲間たちを『口封じ』で殺した前歴がある。平気な顔して仲間を殺しておきながらまったく反省の色を見せないあたり、根っからの悪だ。しかも殺した相手がイルッカの幼馴染だっていうじゃないか。
きっと彼は俺と一緒に化け物をとらえたところで俺を裏切って手柄を独り占めするつもりだろう。
だがその前に化け物から『口封じ』されてしまうのだから皮肉なものだ。
それでも俺、イルッカに比べればまだ真相に近づいているだけマシだ。
俺にいたっては、何も知らないうちに彼と一緒に消されてしまうという哀れな運命をたどるのだから……。
さて、ではいかにして死亡フラグを回避しようか。
今の俺にはいくつかの選択肢がある。
(1)彼と一緒に犯人捜しを手伝うことにする。
(2)『仲間を疑うなんてできるはずないだろ!』と突っぱねる。
(3)のらりくらりとかわす。
言うまでもないがアニメではイルッカは『1』を選択してしまう。
仮に上手くいってもディートハルトに裏切られ、そうでなくても化け物に殺されるという最悪な選択肢だ。
ちょっと考えればわかりそうなものだが、脳みそまで筋肉でできているイルッカには思いつかなかったようだ。
では、『2』を選択したらどうか。
これもアウトだ。
重大な秘密を打ち明けられたにも関わらず否定しようものなら、その場でディートハルトに消されてしまいかねない。そうでなくても「化け物とつながってるな」と疑われるに違いない。
……となるとおのずと残る選択肢は一つだ。
『3』の『のらりくらりとかわす』であり、「犯人捜しに協力しない」かつ「ディートハルトに敵対しない」という状況を作り出さなくてはいけないってことだ。
難しいが考えている暇はない。
まずは「犯人捜しに協力しない」ということを明らかにして反応を見よう。
「悪りぃな。俺は仲間を疑うような真似はしたくねえんだ」
「なんだと!? てめえ! ここまで聞いておきながら聞かなかったフリを決め込むつもりじゃねえだろうな? そんな裏切りが許されると思ってるのか?」
思った通りの反応とは言え、一方的に自分から秘密を打ち明けておきながら『裏切り者』の烙印を押してくるのは理不尽だろ。
だがそういう理屈が通じるような相手ではなさそうなのは、不自然にズボンのポケットに右手を入れていることからも明らかだ。
俺が逆上しようものなら、ポケットにしのばせたナイフでズブリと突き刺してくるつもりなんだろうな。
ちらりと自分の頭上に目をやった。
よかった。まだ死亡フラグは立ってない。
ならばこのまま自分を信じて突き進むだけだ。
次は「ディートハルトに敵対しない」というのを伝えることだ。
「すまん、すまん。ディートハルトを怒らせるつもりはねえんだ。俺もお前さんに協力したいのはやまやまだ。だが確証もなく仲間を疑うってのは性に合わねえってことだ」
「確証だとぉ?」
「ああ、どうしてお前さんが仲間の中に化け物がいる、って思ったのか。それを示してくれなかったら俺は動くつもりはねえよ」
「それは……」
ディートハルトが口ごもったのは、その『確証』とやらが言いづらいからだろう。
ちなみにこの後すぐに彼は何者かによって殺されてしまう。
だから彼が仲間の中に化け物がいると思った理由はアニメでも示されなかった。
……と言っても、何となく真相は分かっているんだけどな。
それを確かめるために鎌をかけてみるか。
「なあディートハルト。お前さんは仲間の中に化け物がいるって、『誰か』に吹き込まれたんじゃねえだろうな?」
「えっ!? なんで分かったんだ!?」
「……やっぱりそうだったか……。分かった。じゃあ、明日の早朝にそいつを連れてこい。そしたら信じてやる」
「……ああ、分かった。そうしよう」
「では約束だ。それまでは俺は信じないぞ。たとえお前さんの身に何があってもな」
「ははは! 俺の身に何があってもだって? それは心配ない! 化け物だかなんだか知らねえが俺を殺すことはできねえ! いいだろう! 約束してやる!」
よし、うまくいった。
「犯人捜しに協力しない」かつ「ディートハルトに敵対しない」という二つを成立させたから、死亡フラグを回避したはずだ。
俺は相変わらず黒い旗を頭に乗せたままのディートハルトの背中を見送りながら、自分の無事を祈り続けたのだった。
………
……
その日の夜――。
ディートハルトの叫び声が静寂を破った。
「ぎゃああああ!!」
異変に気付いた仲間たちが一斉に自分たちのテントから飛び出してくる。
俺も彼らにならって寝袋から出た。
まだ寝ていたいがそうも言ってられない。
下手な動きをすれば、俺が疑われかねないからな。
ここは皆に調子を合わせておくのが最善だ。
「なんだ!?」
「ディートハルトか!?」
全員で彼のテントに駆け寄る。
そして幕を開けたとたんにナタリアという名の若い女が叫んだ。
「きゃああああああ!!」
テントの中は血の海。その中央に、全身を鋭利な刃物で切り刻まれたディートハルトの亡骸が横たわっていたのだ。
恐怖で顔をひきつらせたまま絶命している……。
アニメでもえぐかったが、目の前で本物を見ると余計にえぐいな……。
「化け物だ! まだ近くにいるかもしれない! 武器だ! 武器を持つんだ!!」
正義感たっぷりに青年の声がこだますと、みな一斉に自分のテントへ武器を取りに戻っていく。
仲間が惨殺されたことで、彼らは怒りと緊張に包まれているようだが俺はまったく違っていた。
なぜならディートハルトと一緒に殺されるはずだったのに、こうして五体満足に生き延びているのだから。
むしろ喜びと安堵に包まれており、大笑いしたいくらいだ。
そんな中、後からやってきた少女がテントの前で立ち尽くした。
顔を真っ青にして震えている彼女に対して、ナタリアが甲高い声をあげた。
「アルメーヌちゃん! 危ないから私のそばを離れないで!」
アルメーヌと呼ばれた少女の体は細く、とてもじゃないが武器を手にして戦うことはできない。
彼女はナタリアに抱きつくと、とたんに大泣きしはじめた。
「うわああああん! こわいよぉ!」
「大丈夫。大丈夫だから。何があっても私たちがアルメーヌちゃんを守るから!」
アルメーヌの周囲に武器を手にした仲間たちが続々と集まる。
それを見た彼女は小さな笑顔を作った。
「ありがとう……。お兄ちゃん、お姉ちゃん」
こうして仲間たちは、何があっても少女を守ると、決意を固くするのだった――。
……ただし俺を除いて、である。
だって俺は知っているのだ。
いかにも守りたくなってしまう美少女アルメーヌ。
彼女こそ『化け物』……つまり『ヴァンパイア』であることを――。
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