177人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
「なぁ」
「んー?」
中庭に面した階段の、いつもの踊り場。
間延びしたいつもの北くんの声に、携帯で猫の癒され動画を見る僕もつられて間延びした返事を返した。
あの奇跡オブ奇跡の告白の日から一週間。
ずっと好きだった北くんとまさかの両想いになった。
想いが通じ合ったことはいまだに夢かってくらい嬉しいけれど、僕と北くんの何かが変わってしまうのなら、それはちょっと怖くもあった。
僕は北くんのことが大好きで、これからもきっと大好きだけど、今までの関係が変にギクシャクしたりだとか、そんなのはやっぱり嫌だったから。
……だけど北くんはやっぱり、どこまでも北くんだった。
何にも変わらない。
変わらなすぎて、いやあれやっぱ夢やったんかな?って思う日もある。
お風呂の中とか、ベッドの中で1人ぼんやりしている時。
え、これほんまに付き合ってる!?
ってなる時もある。
でも、携帯にはちゃんとあの日の北くんからの着信が何個も残っている。
『南、おる?』って何回も来たメッセージが残っている。
『今から行くわ』『今近くの自動販売機』『今玄関の前』って何かちょっと段々有名な某人形のホラー話みたいになってきてたけども。
それでも、あの日僕と北くんが一緒にいた揺るがぬ証拠だ。
北くんの謎のこだわりで、なんとか間に合ったあの公園で並んで見た夕陽とか、あの時の北くんに僕は密かにずっと見蕩れていたこととか。
思い出す度、今すぐ走り出したくなるくらいぶわーっ!!って全身を何かが駆け巡って、ちょっとおかしくなりそうだった。
それはさておき。
相変わらず僕たちはこうして肩を並べていつものパックのレモンティーを飲みながら、無事(?)変わらない日常を送っている。
「なぁ、て」
「何よ」
「俺聞いてほしいことあんねんけど」
「どーぞ」
「そんな動画とか見んと真剣に聞いて欲しい感はある」
「聞いてるよ。あ、見て北くんこれめっちゃ可愛いない?」
「やばいな。俺この肉球で白ご飯3杯はいけるわ」
「せやろせやろ」
「ほんでな、可愛いんは一旦置いとくけどな」
「うん」
「俺な、もしかしたらちょっと霊感あるかもしれんねん」
「……。ん?」
北くんはカッコいい。カッコいいけど、時々こうして訳のわからんことを真顔で言い出す時もある。
こんなのにはまぁまぁ慣れてるはずの僕なのに、今回のはまた結構な斜め上から飛んできた。
思わず動画から目を離してそのまま北くんを振り返る。僕の手に握られたままの携帯からは「にゃぁ」という世にも愛らしい鳴き声が場違いなほど可愛く流れ続けていて、それがまたなんとも絶妙に微妙な空気感を作り出していた。
最初のコメントを投稿しよう!