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「なぁ、デートってどうやんねん」
中庭に面した階段の、いつもの踊り場と、購買で買ったいつものパックのレモンティ。
そこにいつものように並んで腰掛け、いつも通り今ハマってるオンラインゲームの話をだらだらとしていたかと思っていたら、友人の北くんから溢されたのは予想もしていなかった言葉だった。
「は?デート?デートって何やねん」
「そこからか」
いや、いくらの僕でもデートという言葉くらいは知っている。
だが、北くんから投げ掛けられた言葉として処理するには、それはあまりにも重たいものだった。
「えー……とな、デートとは、親しい男女が日時を決めて会うこと。またはその約束。……やって」
「いやそんなことは聞いてへんねん」
パックジュースのストローを咥えたまま北くんは器用にスマホを操作し、検索したのであろう語句を読み上げる。
親しい男女……というフレーズに、少しだけ胸が痛んだ。
「……北くん彼女おったん?」
「いやおらへんよ。つかおったらフツーに南かて知ってるやろ」
「ほんならなんでデートやねん」
「んー?なんか隣のクラスの女子がな、俺のこと気になってんねんて。ほんで良かったらデートしませんか、って」
「……そうなんや」
北くんはカッコいい。
僕の知ってる限りでも告白とかされてるのも一度や二度や三度じゃないと思う。
けどいつも彼女なんかは出来てる様子がなくて、僕は密かに安心もしていた。
そんな北くんが、デートとか考えてるなどと僕に言い出すのは初めてのことだった。
「何ていう子?」
「えー……なんやったかなぁ……。山とか川とかついてた気がする」
「名前覚えてないんかい」
「おっぱいが大きかったんは覚えてる」
「あー……。北くん好きやもんな、おっぱい……」
さっきから殆ど味がしないレモンティが喉元を通り過ぎていく。
生温い液体の感覚だけが身体の奥に吸い込まれていくみたいだった。
「ほんで、北くんその子とデートしようって思ってるんや?」
「んー……。おっぱいがなぁ……」
「……」
目を閉じて何かを噛み締めるように僕と同じレモンティを口にする北くんには、どんな味がしているのだろう。
「……まぁ、ちょっとどんなんか興味あるっていうのもあるやん。彼女とか、デートとかそういうの」
「……うん」
顔を上げ、ちょっとだけ笑うみたいにして僕を見る北くんに、甘いような痛いような胸が疼いて跳ねた。
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