不思議玉手箱 短文集

4/5
前へ
/5ページ
次へ
ふと、覗き込む深淵、暗がりの中。日が高ければ高いほど、闇の人々は動き出す。一寸先は闇。ほら、足を取られないように。闇はすぐそこに。想い出の横丁では、死人が手招きして、君を誘っているよ、おいでおいで、通りゃんせ。ついて行っては駄目だよ。彼岸の世界へ呼ばれている。 この村は変だ。皆ひそひそとお経を唱えて、家の中に閉じこもっているし、なにか、秘密の儀式でもしているのではないか。死人を蘇らせる反魂香、線香の香りがまとわりついてきて、空を見上げると切ない入道雲が、鬼やらいがくるぞ、と囁いた気がした。夕立。秘密香、ぬくもり香。 昔のものが、問いかけてくる。貴様はまだ生きていていいのか。黒電話、赤いポスト、提灯、古銭。ジリリリ…と音がして、黒電話から、遠くへ旅に行けと指示が出る。旅に出ます。あてどない昔へと戻る旅。ほら亡くなった人が手招きしている。空にはB29。色褪せたセピア色の巻物。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加