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偽りの家族
ハッピーバースデイの歌が終わると同時に、二歳になったばかりの樹里が小さな口をすぼめ、ロウソクの炎に息を吹きかける。
なかなか消えないロウソクに「うーっ」と短く怒りをぶつけ、「ママ」と樹里は春菜の袖を引っ張った。
「ママも一緒にふぅしていいの?」
春菜が訊くと、樹里はこくりと頷いた。
「パパは?」
向かいから、大樹が樹里の顔を覗き込む。
「パパも」
嬉しそうに、樹里が笑った。
「よし。じゃあみんなでいくぞ。いっせーのーせっ!」
三つの口元から一斉に風が吹き出す。
一瞬で消えたロウソクに、三人揃って手を叩いて喜んだ。
「樹里ちゃん、二歳のお誕生日おめでとう!」
声を揃え、大樹と春菜が娘の成長を共に祝う。
樹里の楽しげなはしゃぎ声が、リビングの中を賑やかに飾った。
かけがえのない家族。
幸せな日常。
そう。
例えそれが、偽りの上に成り立っているのだとしても……。
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