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大樹の秘密
「昨日は楽しかった?」
夏美がワイングラスを傾ける。
「ああ。樹里のやつ、なかなかロウソク消せなくってさ。こぉんなタコみたいな口して、一生懸命息吹きかけてやんの」
ロウソクを吹き消そうとする樹里の口を真似て、大樹が口を尖らせた。
「ふぅん。楽しそ」
口の端だけ持ち上げ笑顔を作り、夏美はナイフをステーキに食い込ませた。
「夏美ちゃんも来れば良かったのに。きっと喜んだだろうな、樹里。あいつ、夏美叔母ちゃん大好きだから」
「叔母ちゃんって言わないで」
一口大にしたステーキを口の中に押し込み、夏美は大樹を睨みつけた。
「ごめんごめん」
笑いながら肩を竦め、大樹がワインに手を伸ばした。
「この後、時間ある?」
「作れって言えば作るけど?」
「今夜、仕事で遅くなるって言ってあるんだ」
グラスをぐるりと回しながら、大樹が小さく呟いた。
「へぇ……」
ぶっきらぼうに、夏美が答えた。
夏美は、春菜の妹だ。
おっとりとした春菜と違い、夏美は活発な性格で、初対面の大樹ともすぐに打ち解け、何かにつけて頼ってくる。
そんな義理の妹が、大樹は可愛くて仕方なかった。
顔もタイプだったことも手伝い、一線を超えるのにはさほど時間はかからなかった。
「いい加減機嫌直してくれよ、夏美ちゃん。今夜はたっぷりサービスするからさ」
口元をいやらしく緩め、大樹が猫撫で声で誘う。
「今度また叔母ちゃんなんて言ったら殴るから」
「はい。もう言いません」
「お姉ちゃんと樹里の話したら、即帰るから」
「はい。もう話しません」
最後のステーキを頬張ると、夏美はナプキンで口を拭いた。
「めちゃくちゃ気持ちよくさせてくれるんでしょうね?」
「もちろんです。お姫様」
瞳を輝かせ、大樹は執事のように自分の胸に右手を当てた。
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