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その頃、職員棟の一つである西の足では、教師の仕事に熱心に取り組む剛堂の姿があった。
彼の場合は教師という立場上、学院に来ざるを得なかったわけだが、なんせ昨日の今日である。李空と同様、授業に身が入らなかったことはいうまでもないだろう。
「・・・平吉か」
机の上で振動する携帯電話。メッセージを送ってきた相手を確認し、本文を開く。
そこには、零ノ国と央が反転していたこと、六国同盟『サイコロ』が結成されたこと、それから、今から一旦帰国する旨が書かれていた。
「はぁ・・・」
剛堂は簡潔に返信すると、大きなため息を溢した。
メッセージの内容はなかなかインパクトの強いものであったが、今の剛堂の感情を支配しているのは、圧倒的な無力感であった。
剛堂は『TEENAGE STRUGGLE』ナンバーツープレイヤーとして、長い間活躍をしてきた。
絶対王者セウズを目標として、ひたすらに突っ走ってきた。
ついに自分の力でセウズを打ち倒すことは叶わず、現役を引退。
その後は監督役として壱ノ国を牽引し、最後のチャンスでセウズに一矢報いることができた。
が、その時剛堂に芽生えた感情は、喜びよりも無力感の方が強かった。
できることなら自分の手で倒したかった。その気持ちをどうしても拭いきれなかったのだ。
感情の整理が追いつかないまま、今度は会場に忽然と現れた男がセウズを一発で仕留めた。
李空との試合の直後であったとはいえ、あのセウズをいとも簡単に倒した男。
その姿を見た時、剛堂の戦士としての血が騒いだ。
が、「繰り上がりの法則」により、力が半分となった今の自分には何もできないことを、誰よりも剛堂自身が感じていた。
そして、教師として受け持つ生徒の一人であり、結果として自分がこの世界に巻き込んだ形となる真夏をいとも簡単に攫われた、不甲斐なさ。
今の自分では、どう足掻いでも力不足。
剛堂の複雑な心境は、結局のところ全てそこに帰結するのだった。
「繰り上がりを解除できる術でもあればいいんだがな・・・」
剛堂は一人、寂しげに呟いた。
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