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AFTER CLOUDY
李空はこの日、最善な目覚め方をした。
最低限の家具だけが置かれた部屋。
カーテンの隙間から漏れる光が、2段ベッドの1段目へと注がれる。
女神が天より手を差し伸べたようなその光に、閉ざされていた李空の瞼はパチリと開かれた。
いつもより早い時間なのだろう。
朝に弱いルームメイトがセットした目覚ましの音は聞こえてこない。
代わりに聴こえてくるのは、鳥のさえずり。
清々しい朝。爽やかな朝。心地よい朝。
多くの者が理想とする1日の始まりがそこにあった。
しかし、上体を起こした李空の表情は暗い。
その理由は明白。
『TEENAGE STRUGGLE』決勝戦の後に起きた、一連の事件のせいだ。
絶対王者セウズが率いる肆ノ国に勝利を収め、壱ノ国の優勝が決した直後。零ノ国会場に、突如二人の男が姿を見せた。
それを目にした時、李空の足は竦んだ。
それも無理はない。李空の才『オートネゴシエーション』を以ってしても、その男たちからは何も読み取れなかったのだ。
全くの未知。底しれぬ力に、李空の足は固まった。
畏怖と後悔。優勝した喜びは、一瞬の内に負の感情に上書きされた。
戦果。積み上げてきた自信。それから、二人の仲間。
李空が失ったものは大きすぎた。
京夜が消えた。
連れ去られたのか、自ら姿を晦ましたのか。
どちらにせよ、京夜の行方は分からない。
その事実が、李空の心に冷たい風を送る。
真夏がいない。
自分の目の前で、真夏は男に連れ去られた。
そして李空は、それを阻止することができなかった。
その事実が、李空の心の陽を隠す。
「はぁ」
ため息と共に、カーテンの隙間から外を眺める。
「嫌な空だな・・・」
外は嫌味なくらいに晴れているというのに。
李空の空はどこまでも曇っていた。
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