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───こちらはイチノクニ学院。
西の親「玄」のクラスには、机に向かう李空の姿があった。
到底、授業を受ける気分にはなれなかったが、寮でじっとしていても気が滅入るだけだと考え、李空はこうして学院に顔を出したのだ。
「はぁ・・・」
中年の男子教師が板書するカツカツと乾いた音を聞き流しながら、李空はため息を溢す。
李空は壱ノ国に戻ってきた時の記憶が朧げだった。
各国の代表が何やら話し込んでいたこと。平吉はそこに残ったこと。美波の才『ウォードライビング』で帰ってきたこと。
李空が覚えているのはそれくらいだった。
暗い表情のまま教室を見渡す。
そこにはいつもと変わらぬ日常が流れていた。
教師に当てられた卓男が、「ござがござでござって・・」と、完全にテンパっている。
彼も李空と同じ思考に至ったのだろう。気分を紛らすために登校したようだ。
「もういーぞー。はい次。・・ん?なんだ、晴乃智は休みか。珍しいな。それなら・・」
真夏を指名しようとした教師であったが、彼女はいない。
そう、この教室に真夏や京夜はいないのだ。
「おっと、時間だな」
腕につけた時計を確認した教師が、教室を後にする。
と、その途中で何かを思い出したように立ち止まった。
「あー、そうだ。透灰。この後なんだが───」
中年教師が自分に向けて何かを言っている。
李空はそれを上の空で聞いていた。
雲が覆う空模様は、どこまでも不鮮明で。
音にはノイズが走り、色は灰色であった。
「じゃ。頼むぞ」
最後に念を押し、今度こそ教師が去っていく。
その時。李空のポケットの中で携帯電話が震えた。
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