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フェーズ1
日記を書いておけばよかった。そう思ったことがある。
日々の暮らしの中で見たことや、感じたことを日記という形式で書きとめていたならば、自分の人生は今とは全く違ったものになったのではないか。あるとき、そんな考えがふっと私の頭の中に降りてきて、しばらくのあいだ離れなかった。
そのときのことは、よく覚えている。
土曜日の夕方、休日出勤を終えて電車で帰宅していた私は、七人掛けの座席の真ん中に座り、後頭部を窓ガラスにぺったりとくっつけて、その日一日中酷使した脳を休めることに専念していた。
周囲の乗客の誰もがスマートフォンに夢中だったが、私は自分のそれには触る気にならず、むしろ電源を切っていた。
私のスマートフォンに入れているチャットアプリでは、プロジェクト内のやり取りが頻繁に飛び交っていた。夜中だろうが、土日だろうが、お構いなしに通知が来ることに嫌気がさしていた私は、どうしても必要なとき以外は、スマートフォンの電源を入れないようにしていた。
プロジェクトに参加したのは、数ヶ月前のことだった。上層部の不手際で、プロジェクトの開発スケジュールには最初から無理があり、その負担は私のような、末端のプログラマーに全てのしかかった。連日の深夜残業で、私は身も心も削られていき、限界が近づきつつあることを感じていた。
その日も、疲労からか頭が朦朧としていたのだが、電車が駅に停車したとき、ある光景が目に止まった。
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