フェーズ1

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 車窓から見える駅前の広場では、幼い姉妹がしゃぼん玉遊びに興じていた。その近くでは、母親と思われる女性がベンチに腰掛けて、二人を温かく見守っている。女の子たちのストローから放出された、きらきらと輝く気泡もまた、宙を漂いながら彼女たちを優しく守っているようだった。  どこからどう見ても心温まるシーンだった。けれどもなぜか、私は落ち着かない気持ちになってしまった。  彼女たちと同じように、私にも、毎日を純粋に楽しんでいた時代があった。しかし二十代後半ともなれば、幼い頃の幸せだった記憶は薄れ、日々の生活に追われて疲弊しているのが現実だった。  美しい思い出は、すべてを解決してくれるわけではないが、希望を失った人間には、どんな些細なことであっても、光になるのではないだろうか。  そんな風に考えたら、あっという間に過ぎ去ってしまう日々を、日記という形で保存していたらよかったと思う気持ちが芽生えた。そんな気持ちになったのは、人生で初めてのことだった。  あれから一年後、私はある事件に巻き込まれることになる。
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