フェーズ1

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 その事件は、やがて日本全体を揺るがすほどの企業スキャンダルに発展していったが、事件が発覚した当初は、まさか自分が当事者の一人になるなんて、夢にも思わなかった。  私は、平凡で、どこにでもいるプログラマーとして一生を終える。そう信じていたからだ。  だが、この数週間に私の周りで起きた数々の出来事は、あまりにも非日常的で、あまりにも多くの変化を私にもたらした。  この経験から私は多くを学んだが、そこに至るまでには少なくない時間が必要になってしまった。けれども、無知だった自分を責めても、失った時間は戻ってこない。  なにしろ、一介のプログラマーに過ぎない私にとって、あらゆる状況が未知の連続だった。そう言う意味では、多少の言い訳の余地はあるのかも知れない。ベストな選択を毎回できるのなら、そんな楽なことはないが、人間はプログラムと違って、入力と出力がいつも同じ組み合わせになるとは限らない。  置かれていた状況の中で、私が正しく行動できたかどうか。それについては、第三者の判断に委ねたいと思う。
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