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庭には二羽、鶏がいる
僕は毎朝、庭の二羽の鶏に餌をやる。
鶏たちは僕がこの駐在所に赴任して間もない頃、玄関前に箱ごと捨てられていた。そのときはまだ二羽の小さな黄色いヒヨコで、多くの出店が軒を連ねる縁日の晩だった。
賑やかな祭りの雰囲気に乗せられて衝動的にそれを買ってしまった子供が親に「返してこい」と叱られ、駐在所の前に置いていったのだろう。
仕方なく飼うことにした僕は、日曜大工で庭に鶏小屋を作った。凝り性が功を奏して我ながら立派な高床式の鶏小屋が完成し、ヒヨコたちはすくすくと育っていった。雌だったら新鮮な卵を産んでもらえるのではと期待していたが、残念ながら二羽とも雄鶏だった。
そして半年が経つ頃には毎朝、けたたましい鳴き声で夜明けを告げるようになった。
「なぁ、駐在さんよ。なんとかならんのかね? おみゃあさんが庭で飼っとるニワトリ。毎朝毎朝まだ陽も出とらんうちから甲高い声で鳴きよって、うるさぁてたまらんて」
「はぁ……すみません」
僕は整理中だった書類の束に目を落としたまま、今年に入って八回目になる苦情に対応した。
事務机を挟んで対峙する苦情の主は、今度もまた近所の独居老人。相手が誰であろうと何かしら言いがかりをつけてくることで有名な爺さんで、駐在所には地域の住民から様々な苦情が舞い込んでくるのだが、彼に関するそれも少なくなかった。
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