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1 カザミと知らない男の子
沿道に並んだ白と桃色のハナミズキが満開を過ぎようとしていた。
風子は海老茶色のプリーツスカートをなびかせて坂道を駆け上がる。
二十分かけて整えたミディアムヘアーもすっかりかき乱されていたが、それを気にする様子もなく軽やかにかけていく。
坂の上には町を一望できる丘の上公園がある。
風子は大股で階段を一気にとび越えると大きく息をついた。
ふきだした汗に心地よい風が吹き、火照った体が冷えるのを待ってから人気のない園内を見回した。
公園とは呼ばれているものの、ベンチがぽつりぽつりと置かれているだけで遊具も芝生もない。かわりに、風力原動機のプロペラが立ち並び、ぶんぶんとうなりを上げて回っている。
風子は髪を整えながら、そこにひとつの背中を見つけてかけよった。
「空ちゃん」
と呼びかける。
空彦はけだるそうに横目で風子を見上げた。
「遅刻するぞ」
風子は顔をしかめたが、それを予期していたかのように空彦は目を合わせようともしなかった。
風子はため息をついた。
しかし、それは強い風にさらわれていった。
「学校、行かないの? 新学期に入って、まだ一度も行ってないでしょ?」
「いや、一回行った」
「嘘、いつ?」
「さあ? 教科書買えってうるさいからさ」
「なんで言ってくれないの?」
風子は口をとがらせる。
「なんで言わないといけないの?」
空彦は顔を上げて、小馬鹿にしたように笑った。
空彦の黒髪はぼさぼさだった。
風に乱されたのか、寝癖のままなのかは分からないが、風子はそれをさらにかき乱してやりたくなった。
「なんでって……」
胸がちくりと痛んだ。
なじってやりたい気持ちを押さえて、風子は唇を噛んだ。
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