1 カザミと知らない男の子

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「おばさん、心配してたよ」  空彦は鼻で笑った。 「面倒事が増えると困るんだよ」 「そんな言い方」  さえぎるように、空彦は大きなあくびをしながら立ちあがった。  そして風子を見ると、 「髪、ぼさぼさ」  と笑った。  風子は反論しながら髪を整えたが、すぐに風に乱されてしまう。 「本当に、遅刻するぞ」  その声には困惑するような響きがあった。  自分は遅刻どころかざぼってばかりだというのに。 「じゃあ、一緒に行こうよ」  風子は空彦の手をにぎった。 「俺は……」 「いいから」  そのまま強引に空彦の手を引いた。  空彦はぶつぶつと文句を言いながらも、その手を無理にほどくことはしなかった。  風子は気をよくして鼻歌を歌った。  そのメロディーに乗るように風がくるくると渦をまく。  プリーツスカートが大きくはためき、風子はあわててすそを押さえた。 「見てないから」  空彦は笑った。 「スカート短くなった?」 「だって、もう二年生だから」 「ふうん」 「ねえ、そういえばさ……」  と言って、風子は立ち止る。  通学路に入ったが、すでに生徒の影は見当たらなくなっていた。 「こんど進路調査があるんだって」  それから、ためらうように間を置いたあと、 「空ちゃん、大学に行くの?」  とつとめてさりげなく聞いた、つもりだった。 「なんで?」  空彦は無表情だった。 「そう聞いたから……」 「誰に?」 「いろんな人に」  風子は言いにくそうに答えた。  案の定、空彦はため息と舌打ちをもらした。  彼女は握った手に力をこめて、 「本当に、島から出るつもりなの?」  と聞いた。
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