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「どうして?!」
自分の声が震えていた。
呼び出されたカフェ、まだ秋口で今日だって半袖でいいくらい暖かいというのに。
コーヒーカップを持つ指先まで震えているのに気がついて、口を付けることなくそれをそっとソーサーに戻す。
戻した時にガチャガチャと音を立ててしまって俺が動揺していることを彼女だって気付いたはずなのに。
「ごめんね、好きな人ができたの……、これじゃあ青也と結婚なんかできないから、だから」
だから。
だから?
「別れたいってこと、なんだ?」
言葉がうまく出てこない、酸素不足のように息が苦しくなっちゃって。
胸の痛みをごまかすように、噛みしめた唇が痛くて。
そんな男、一体いつできたって言うんだよ、とか。
ふざけるな! っていう思いや。
それからテーブルの上で血管が浮き出るくらいに震える拳を。
どうにか深呼吸して逃してやってから、やっと。
「……、真白のこと親に報告する前で良かったわ」
最上級のイヤミに真白は一瞬ビクリとして、それでも。
「うん、私も親に言う前で良かった」
バツが悪そうに微笑むんだ。
よく笑えるね、こんな状況の中で。
一粒の涙も出ないほど、俺のことなんかもうどうでもいいってわけか。
「じゃあ、元気で。荷物はどうする? 俺の家にあるの、送ろうか?」
「ううん、大丈夫。捨てていいから」
捨てさせるんだ? 俺に。
テーブルの上に1000円札を叩きつけるように置いて立ち上がると。
「私が呼び出したから」と、それを返そうとする真白に首を横に振る。
「じゃあ」
短くサヨナラを告げて、帰り道を急ぐ。
もう君に振り返ることなど、ない。
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