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「じゃあ」
その背中が店を出て見えなくなるまで耐えた自分を褒めてあげたいよ。
二度と振り向かないだろう彼の背中に心の底から謝った。
傷つけてしまってごめんなさい。
あんな説明しかできなくてごめんなさい。
青也はきっと、二度と私を許さないだろう。
それでいい、それで……。
お会計を済ませていると店員さんが困ったように私を見ているのに気づく。
あ、お釣りだ、そうだ。
「すみません」
ゴシゴシと目を擦ってからそれを受け取って店の外に出て。
落ちてくる雨に折り畳みの赤い傘を広げた。
バラバラと音を立てて傘に当たる強い雨音。
こんな小さな傘じゃ塞ぎきれない、すぐに足元も肩も濡れていく。
降水確率は午後から高いとTVでは言っていたけれど、青也はきっと持ってきてなかったよね?
いつもその場の空の色だけで行動するんだもの、心配になる。
今頃濡れてるんじゃないだろうか、なんて。
私が心配するのはいい迷惑だろう。
もっとましな嘘はなかっただろうか。
きっと恨んでる、私のことを恨み蔑んでいる。
5年も付き合ってようやくプロポーズの言葉を貰って。
幸せでこの先一生青也と暮らせる喜びを嚙みしめたのはつい1か月前だ。
青也以外、誰を好きになればいいんだろう。
きっとこの先誰も好きになどなれない気がする。
うん、誰かを好きになる資格などない。
この土砂降りの雨は私の涙だ、あの日青也と別れようと決めた日の。
何度も泣いたよ、諦めたくなくて。
それでも私の存在はきっとあなたの重荷になるから。
青也にとって一番後腐れの無い別れ方を模索して紡いだのは。
―――好きな人ができたの
精一杯の私の嘘にどうか気付かないで。
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