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居酒屋を出た後も森山君と一緒にいて、なぜかラブホテルの話になった。
彼は彼女との行為は自宅でしていたので、利用した事がないらしい。
逆に実家暮らしだった私はよく利用していた。なんて事を話すと森山君が食いついてくる。
「やっぱり窓ってないんですか?お風呂は広かったりします?」
10年前の記憶を総動員する。
「窓は壁みたいになってたかな。でも、開けられるんだよ。それで、有線が入ってて、けっこう大きな音で音楽流れてるんだよね。音楽消しちゃうと、隣の部屋のカップルの声とか聞こえてくるんだよね。あれはきっと声消しの為に音楽を流すようにしてるんだろうね。それでベッドの上には鏡があった。あれ行為中に見るとエロいんだよね。お風呂は二人で入る感じで広かったかな。大人の玩具の自販機もあった。でね、妙にエレベーターが狭いの。朝、チェックアウトする時、他のカップルと鉢合わせになってすっごく気まずくなったなー」
「実感こもってますね」
その後も、森山君に詳しく様子を聞かれながら駅に向かって歩いた。
段々、答えるのが面倒になってくる。
「そんなに興味があるなら今から行く?」
「えっ」
森山君が立ち止まり、私の顔を覗き込むように顔を傾ける。
彼は背が高くて、ヒールを履いてても、私の頭は彼の肩の位置にあった。
「いいんですか?」
まじまじと森山君が見てくる。
「だって部屋を見るだけでしょ?ついでに少し休憩して行こう。なんか疲れちゃった」
今夜はいつも以上にお酒が回って、頭の中がぐるぐるしてる。
どこか座れる場所に行きたいというのが本音だ。
「春川さん、襲わないで下さいよ」
森山君が笑いながら言った。
「そんな事する訳ないでしょ。森山君みたいな草食系の細い子、全然、男としてみてないから」
彼からは人畜無害なオーラが出まくってる。襲ってくる勇気は絶対にない。
「それを聞いて安心しました。そうですね。社会科見学に行きますか」
「大人の社会科見学に行こう!」
拳を上げてそう言った。なんか楽しくなってくる。
「春川さん、声大きいですよ」
生真面目そうに森山君が言った。お母さんみたい。
ケラケラと笑いながら進行方向をラブホに変えて、歩き出した。
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