1話 森山君

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 居酒屋を出た後も森山君と一緒にいて、なぜかラブホテルの話になった。  彼は彼女との行為は自宅でしていたので、利用した事がないらしい。  逆に実家暮らしだった私はよく利用していた。なんて事を話すと森山君が食いついてくる。 「やっぱり窓ってないんですか?お風呂は広かったりします?」  10年前の記憶を総動員する。 「窓は壁みたいになってたかな。でも、開けられるんだよ。それで、有線が入ってて、けっこう大きな音で音楽流れてるんだよね。音楽消しちゃうと、隣の部屋のカップルの声とか聞こえてくるんだよね。あれはきっと声消しの為に音楽を流すようにしてるんだろうね。それでベッドの上には鏡があった。あれ行為中に見るとエロいんだよね。お風呂は二人で入る感じで広かったかな。大人の玩具の自販機もあった。でね、妙にエレベーターが狭いの。朝、チェックアウトする時、他のカップルと鉢合わせになってすっごく気まずくなったなー」 「実感こもってますね」  その後も、森山君に詳しく様子を聞かれながら駅に向かって歩いた。  段々、答えるのが面倒になってくる。 「そんなに興味があるなら今から行く?」 「えっ」  森山君が立ち止まり、私の顔を覗き込むように顔を傾ける。  彼は背が高くて、ヒールを履いてても、私の頭は彼の肩の位置にあった。 「いいんですか?」  まじまじと森山君が見てくる。 「だって部屋を見るだけでしょ?ついでに少し休憩して行こう。なんか疲れちゃった」  今夜はいつも以上にお酒が回って、頭の中がぐるぐるしてる。  どこか座れる場所に行きたいというのが本音だ。 「春川さん、襲わないで下さいよ」  森山君が笑いながら言った。 「そんな事する訳ないでしょ。森山君みたいな草食系の細い子、全然、男としてみてないから」  彼からは人畜無害なオーラが出まくってる。襲ってくる勇気は絶対にない。 「それを聞いて安心しました。そうですね。社会科見学に行きますか」 「大人の社会科見学に行こう!」  拳を上げてそう言った。なんか楽しくなってくる。 「春川さん、声大きいですよ」  生真面目そうに森山君が言った。お母さんみたい。  ケラケラと笑いながら進行方向をラブホに変えて、歩き出した。
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